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風穴-7

「これを使え。」
「これは…手榴弾?」
「北竜組から盗んだ。そいつで奴らの事務所をふっ飛ばすんだ。」
自分も死にたいなら、自爆が一番手っ取り早い。そして相手も確実に殺傷できる。無論、首尾よく自爆できればの話だが。
「このピンを外すんですね?」
「そうだ。事務所に駆け込んだらピンを抜け。そのまま握りしめていれば、4秒後に半径10m四方の物がキレイに吹っ飛ぶ。事務所の中にいる奴は無事ではいられない。当然、お前もな。」
燎は新商品の説明でもするように淡々と語った。
「ピンを抜いて、握る。」
「そうだ。」
井上は手榴弾のピンを不安そうに指でなぞった。
「安心しな。やり損なったら俺が撃ち殺してやるよ。」
「…はい。」
燎を見上げた井上の瞳は、黒いビー玉の様に冷たく澄んでいた。
これが死神の愛する瞳の色なのだろうか。
同じ黒でも、ヘドロの様に濁る自分の眼とは全く違うな、と燎は思った。

井上は、ユメが殺されたきっかり一週間後のその時間に復讐をすると決めた。手榴弾を持って組事務所に駆け込み、爆発させる。北竜組と心中する作戦だ。

※ ※ ※

「ちっ。雨か。」
決行日は、細かい雨が降っていた。前日の天気予報では曇りだったが、殺されたユメの呪いだろうか。  
雨だからといって作戦を引き延ばすこともないが、燎は視界が悪くなるのが厄介だと思った。
事務所ビルの周囲には、事件後から毎日、刑事が張り込んでいた。井上は自分の事を知る刑事はいないと言っていたが、燎は、念のため宅配業者に扮するように指南した。それなら井上が事務所に向かって行っても、いきなり刑事に阻止されないだろうと思ったからだ。

「躊躇うなよ。」
「はい。」
燎は井上を送り出すと、自分は事務所の斜向かいのビルの隙間へ身を隠した。
雨の中、宅配業者に扮した井上が小さな段ボール箱を小脇に抱え、北竜組の事務所があるHRビルへ向かう。一瞬、井上に気づいた刑事達に、緊張と戸惑いが走ったが、燎の読みのとおり、様子見の判断をしたらしく、動く者はいなかった。

(いいぞ井上、そのまま進め。)
心の中で呼びかけたその直後、燎が潜んでいたビルの隣の物陰から、トレンチコートの男が踊り出た。男はビル階段を駆け登ると、井上を背後から羽交い絞めにした。
突然の事に井上が取り乱し、段ボールを落として叫び声をあげた。燎は、男の背中しか見えなかったが、パイソンに手を伸ばしてグリップを握り、焦らず事態を見守った。
珍客のせいで計画は崩れたが、手榴弾はまだ井上の手の中だからチャンスはある。燎はトリガーに指を掛け、外階段で揉み合う二人を目で追った。
男に何かを言われた井上が一瞬動きを止める。だが、騒ぎを聞きつけて二階から降りて来た組員を見て我に帰ると、手の中にあった手榴弾を突き上げ、ピンを抜いた。

「よせ!」
叫んだトレンチコートの男が、井上から素早く手榴弾を取り上げ夜空へ放り投げる。直後に井上の首根っこを掴むと地面へ引きずり倒し、躊躇いなくその上に覆いかぶさった。
「くそっ。」
燎は舌打ちし、降る雨の中に投げられた手榴弾目掛け、パイソンを撃った。

雨空高く響いた突然の爆発音と舞い落ちる鉄片に、街行く人々が悲鳴を上げた。
騒ぎに次々と飛び出してきた北竜組の組員を見て、張り込んでいた刑事が駆け出し、揉み合いになる。野太い怒号が飛び交う中、槇村に抱えられた井上が咽び泣く声が、小さく響いていた。

手榴弾は五階建てビルの上空で破裂したらしく、濡れた道路に破片が散乱したが、怪我人は一人もいなかった。

爆発の寸前に銃声を聞いた槇村は、ビルの隙間へ消えようとしていた赤いTシャツ姿の屈強な男の背中を見つけて駆け出した。
頭上で爆発するはずの手榴弾がビルの遥か上で爆発した。槇村にも訳が分からなかったが、槇村の刑事の勘が、目の前の男が何か神業をやってのけたのだと告げていた。

「シティーハンターか?」
男は足を止めたが、振り返らない。
「貴様、なぜ?!」
「…さあな。」
燎は振り返らずにビルの隙間を駆け抜け、雨に濡れる人混みへ紛れて消えた。

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

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