スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

はじめに

初めまして。

こちらは、KAIBAが運営するCITY HUNTER(北条司 氏原作)の二次創作ブログです。

2012年秋頃、本屋でエンジェルハートを見掛けたところ、
AHがなんとCHの巻数(Jump Comic全35巻)を越えていた!!
学生時にCH連載をタイムリーに読み(…〇十年前です(汗))、
当時ハマりまくっていた私には、AHはずーっと受け入れがたかったのですが、
今はもう通巻40(1stシーズン+2ndシーズン)(2013年11月現在)。
ある種のショック(?)を覚え、ついAH大人買い、一気読み。
(AHついては、「考察」でそのうち…)

で、一気読み後にCH熱が再炎上。二次創作サイト読みまくり。
で、みなさまの二次創作に共感したり、感服したり…。
で、自分の妄想が暴走したのがコチラのブログです。

主に、原作では描かれていない“隙間”の勝手な解釈と、
最終回~数年後のRyo&Kaoriを想像した内容ですが、
思いっ切り管理人KAIBA解釈のR&Kです。
なので、北条先生原作の世界観を崩したくない方は、早々にお帰り下さい 。
ここでお帰りにならず、内容に不快を感じた場合の責任は負えませんのであしからず。


★ 本ブログは個人的な趣味の範囲で開設したブログであり、
  原作者、各出版社、テレビ局等各関係者様とは一切関係ございません。
  また、全ての作品はフィクションであり、
  実在の個人・団体・事件等とも一切関係ありません。

★ 管理人はブログ&二次創作の知識がアヤシイので、色々不手際があると思います。
  予めお詫びいたしますm(_ _)m
  心優しい方々のアドバイスお待ちしています。

★ 拍手・感想・ご意見大喜び。リクエスト(あるかいな…)随時募集。荒らし御免。

★ CITY HUNTERファンに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
  ご連絡頂けたら更に嬉しいです。
   リンク用URL:http://kiaab.blog.fc2.com/blog-entry-1.html
   ブログ名:Buliitt…その破片

★ 本ブログ内で発表した作品の使用、転載、引用及び各記事の直リンクは許可制です。
  使用などをご希望の場合は、コメントへ非公開でご連絡下さい。 
  KAIBAの許可なく使用、転載、引用及び各記事へ直リンクすることは、禁止します。

★ 本ブログ運営に際してのガイドライン
① 本ブログは、原作者北条先生及び関連の著作権所有者から
直にツッコミが入ったら、即時撤収します。
② 内容につき、関係官庁から法的ツッコミが入ったら即時撤収します。
③ 管理人は、原作のコピートレース、コラージュはしません。
(「戯言 そもそも論」のみ例外)
   模写については、原作の引用部分を明記します。
④ ご訪問者からのツッコミは拝聴しますが、ブログ撤収はしません。

 
★ 基本設定:
(長編)原作エピソード+原作終了数年後
(短編)原作設定+〇年後?(ご想像におまかせ)

★ 登場人物:原作キャラ+オリジナルキャラ
★ 冴羽リョウ:冴羽燎と表記します。
★ 原作引用:引用箇所についての注記は、『CITY HUNTER COMPLETE EDITION』
 (徳間書店)の巻数とエピソード番号を示します。解説では、『CH C/E』と略します。
★ 更  新: 1~10日に一度が目標です f(^_^;

★ こんな2人もありよね!!
 と、おおらかに受け入れて下さる方、どうぞコチラのアナザーCHワールドへ!!

since 2013/ 3/26

スポンサーサイト

目次

目次
★CITY HUNTER 二次小説(長編)

※発表順です。( )内は、お話の設定年月です。

「花信風」全18話(1992.3)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18

「青嵐」全21話 (1992.6)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21

「つむじ風」全30話(1993.9)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30

「つむじ風の足跡」全5話(1993.10 「つむじ風」のおまけ話)
1、2、3、4、5

「透間風」全37話(1991.11)
pro、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、epilogue

「春疾風」 全32話(1991.9)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、epilogue

「初嵐」全5話(1991.11) 
1、2、3、4、5


★CITY HUNTER 二次小説(短編/時間シリーズ)
※ 発表順ではありません。お好きな時間をお楽しみください。
00:2001:1001:4502:2005:2509:5511:4512:5513:3014:4015:1015:5016:1517:1019:1019:5020:15【A面】20:15【B面】22:2022:50【A面】22:50【B面】

★CITY HUNTER 二次小説(短編/Newsシリーズ)
※発表順です。

三保の松原24億円?イリノイの遺品懲り五輪?中秋の月光に60年の家族(前)、(後)それでも、だから、これからを憲法記念日ブリタニ―29

★CHの考察
※発表順です

Report#1. メディアミックスReport#2. 城市猎人 (中国版「シティーハンター」)/Report#3. 冴子&海坊主
Report#4. 神回の音効report#5 冴羽リョウのもっこりについての浅はかな分析report#6 「愛宿」が凄かった件

★賜物
小谷野さま」/「ヨフカシさま、えびすなさま」/「あさのみさま

★イベント
「City Hunterへの依頼大募集」(御礼)/「調査報告書/PROJECT O-31」/Trick-or-treat!

soy milk

「ミルク、いる?」
「ん〜あぁ。」
リョウはどこからか拾ってきた数日前のニュースペーパーを捲りながら、マリィーから受け取ったグラスに口をつけた。
「―― なんだこれ?」
「soy milk。Chenさんにもらったのよ。」
Chenは階下で中華料理屋を営む初老の中国人だ。先日マリィーがガラの悪い客を追い出してやったら、なにかと差し入れてくれるようになった。料理が得意ではないマリィーには大助かりだったが、時に紛れ込む未知の食材は少々苦手だったりする。
「お前、飲んだのか?」
「え?えぇ。健康に良いそうよ。」
嘘だ。本当は青臭さが気になって飲んでいない。ふっと外した視線でリョウはマリィーの嘘に気づいただろうに、何も言わずにぐっと飲み干した。

*****

数年間の傭兵仕事を終えた父親が南米の小国で“拾った”と連れ帰ってきたのがリョウだ。
歳の頃は同じに見えたが、まるで野生動物のように鋭い目と少年さが抜けきらないしなやかな身体から放たれるオリエンタルな色気は、マリィーの雌の好奇心を騒めかせた。

胸の谷間にぞくりと痺れが流れる。マリィーが口角を上げて微笑むと、リョウは生意気な視線を返した。

“この野生動物を手懐けてやりたい。”マリィーはそう思った。

傭兵の父親に習い、マリィーはそれまでに何匹もの小動物や野鳥を手懐けてきた。
先ずは警戒心を解かせること。それには自分の与えるものを食べさせることが一番だ。安全な食事を得られれば大抵の動物は“堕ちる”。但し、警戒心の強い者ほど食べ物を口にさせるまで時間がかかるから難しい。
リョウの眼は深い森の夜の様な闇色をしていた。これはきっと時間がかかると予想していたのに、なんのことはない。与えた食事はあっさりと口にした。いくら父親に信頼があるからと言っても、警戒心の欠片もない。野性味溢れる尖った気配は見掛け倒しだったのかと呆れれば、捨て猫のように甘えて来たものだから思わず手を差し伸べて温めてしまった。
当然、絡めとられたのはマリィーの方だ。

「とんだ野良猫を拾って来たわね!」と詰っても、父親は「可愛いだろ?」と笑うばかり。
年若いのに父親と対等の銃の腕前を持つリョウの悲しい過去を聞けば同情もしたが、偶にスイーパーの仕事で父親と出かける以外は、日長一日優雅に本を読んで過ごすか女遊びに夜の街へ出歩くかだったから、まるで飼い猫の様だった。

やがて父親は都会暮らしが気に入らないと傭兵に戻った挙句、マリィーとリョウを残して戦死した。戻って来たのは父親の愛銃だけ。だからマリィーはそれに頼って生きて行くことに決めた。

「パパと違って私はひよっこのスイーパーよ。つまり、稼ぎに余裕はないの。」
心なんかなおざりのSEXを終え、革の擦れたソファーの上で煙草をふかしながら飼い猫よろしくごろ寝をしているリョウの脇腹を抓る。
「…家賃か。」
そう言って気怠そうに癖毛を掻き上げるリョウの指先はSEXをしている時よりよほど色っぽい。ねだる様に指先を絡めたら、「仕方ないな」と呟いて、リョウはその日からマリィーに射撃の訓練を始めた。
元より父親譲りの才能があったマリィーだ。まるで真綿が水を吸うように銃の腕を上げ、瞬く間にリョウのパートナーになった。

*****

「リョウ、食事どうする?」
「あー、なんでも。」
「なんでも、ね。」
「あぁ、任せる。」
「本当になんでもいいのね。」
「だから、そう言ってるだろ。」

リョウは相変わらずマリィーの家の居候で、マリィーが差し出すものは何でも食べた。それが何かを聞きもせず、上手い不味いも言わず、ただ出された物を黙々と食べた。それはマリィーがリョウに初めて食事を供した時から少しも変わらない。
命に直結する食事という行為を他人に委ねるのは相手への全幅の信頼の証であり、時にSEXよりも官能的に胸を熱くし、心を満たすもの。けれどリョウの態度は、マリィーへの信頼には思えず、無論、官能的なものも感じなかった。
死んだ父親は、ゲリラ時代に体験した飢餓が辛かったから何でも食うのだろうと語っていたが、マリィーにはそうは思えなかった。

「リョウ、soy milk飲む?」
「いや・・・いい。」

リョウと仕事を続け、ブラッディーマリーの異称を得た頃、リョウはたった一度、マリィーの差し出したものを口にしなかった。
そして、それきり姿を消した。

*****

「ミルク、いる?」
「あぁ、ありがとう。」
エリックは今朝のニュースペーパーを脇に置き、マリィーからグラスを受け取った。
「これ、ミルク?」
「soy milkよ」
「へぇ。初めて飲むよ。」

エリックはとろりとした乳白色の液体をしげしげと不思議そうに眺め、マリィーのいたずらっぽい口元を見て、くっと飲み干した。

「どう?」
「うん。悪くない。」
「そう。」
「マリィーは好きなのかい?」
「好き、という訳ではないけれど。」
「…何か、思い入れがありそうだな。」
「別に。昔、それを嫌って私の前から姿を消した男がいたな…って。」
「そいつは酷いな。俺は、君が差し出すなら嫌いなものも食べるのに。」
「なぜ?」
「嫌われたくないからね。」
髭から白い歯をのぞかせるエリックの笑顔にマリィーの心が和む。

エリックを自分の手にかけるなんてあり得ない。ブラッディーマリーが随分と甘い女になったものねと苦笑してふと思い出す。

「ねぇ、エリック。私より先に見知らぬものを食べられる?」
「毒味役ってこと?」
「まぁ、そうね。」
「君のためなら。でも、できるだけ避けたい。君を残して死にたくはないからね。」

エリックの澄んだ青い瞳は、リョウの暗闇のような眼とは正反対だ。
リョウの眼はいつも死への道を探っていた。女遊びに興じる時も、静かに本を読む時も、仕事の時も、食事の時も。
あの黒い目が輝いたのは死という真の暗闇を見たときだけ。けれど、いつも一歩踏み間違えて、生き延びてしまっていた。

「こいつで死ねればLuckyなんだが。」
いつだったか、soy milkを飲んだリョウが笑って言った。あれもきっと本心だったのだろう。そして、soy milkを飲まずに消えたのは、もうマリィーが差し出すsoy milkでは死ねないと悟ったから。マリィーがリョウを深く愛し始めていたと気付いたから。


「そういえば、ナットウというのが美容に良いそうだよ。」
「ナットウ?」
「大豆を腐らせたもので、Japanの伝統食だそうだ。」
「Japan…」

風の噂にリョウが流れついたと聞いた国だ。
彼は今でも生き延びているらしい。
もしもあの闇に沈んでいたら、エリックには出逢えなかった。青空の下で笑うことは出来なかった。
もしも、あの闇に沈んでいたのなら……

「ナットウ、食べてみようかしら。」
「OK、今度探しておくよ。さ、朝食にしよう。」
「えぇ。」


自分は結局、リョウに温かい食事を与えてやれなかった。
だから、マリィーは、いつかリョウが温かい食事をとれるよう祈って、soy milkを飲んだ。

続きを読む

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

あずかりもの

「なぁ、お前の日本での最初のパートナーって、どんな奴だったんだ?」
白い手袋でグラスを傾け、ミックが聞いた。
「どんなって…昼行灯みたいな奴、だったな。」
「なんだそりゃ?」
「お前とは真逆かもな。結構な堅物だったし。」
「香の兄貴だったんだろ?」
「あぁ。」
「リョウにカオリを預けた張本人か」
「…あぁ。」
「何考えてお前なんかにカオリを預けたんだろうな〜。」
煩い。それが分かれば苦労はしない。俺はロックグラスの氷を口に放り込み、ガリッと噛み砕いた。
「で、どうするんだ?」
「何が?」
「カオリは預かりものなんだろう?」
「そうだ。」
「俺みたいな男には渡せないんだろ?」
「そう言っただろう。」
「リョウも、俺と同類だな。」
「そうだ。」
「でも、預けた奴は死んじまったんだろ?」
「あぁそうだ!だからなんだ!?」
グラスを握る手に思わず力が籠る。
「お前、誰にカオリを返すつもりなんだ?」

多分その時俺は、相当に間抜けな顔をしていたのだろう。俺の顔を見たミックは、馬鹿みたいに大笑いした。

「嘘だろ?気付かなかったのか?死を覚悟した奴らから預かるものが何か、俺たちは百も承知だろ?」

そうだ。知っている。

戦場で消え逝く前に血だらけの手で託された大小様々な物たち。家族の写真や、小さな指輪、何の役に立つのか分からないネジ一本なんてのもあった。どれも自分には意味のないもので、けれど逝く者にとってはかけがえのない、何としてもこの世に遺したいものだった。
そんな物を託された時は必死に逃げた。逃げて逃げて逃げて、託された何かを守るために逃げ延びて、生きて帰った。

そして生き延びて気づくのだ。
それらは、俺を逃し、生き延びさせる為の口実だったと。

「死ぬな…か。」
「そうさ。俺たちが預かったモノは、俺たちの命さ。違うか?」
「あぁ…そうだった。」
「香の兄貴も同じことさ。本当に託したのはカオリじゃない。お前が生き残ることさ。」
「だが…。」
「20歳は立派な大人だ。誰のものでもない、その時にはもう、香は香のものだった筈だ。そんな事、カオリの兄貴も分かっていた。違うか?」
「じゃあ俺は、香を誰に…」
「言ったろ、香は香のものだ。香がリョウの側に居るのは、香の意思だろうさ。」

「…帰る。」
「おぅ。帰れ帰れ。飲み代はお前にツケとくぜ。」

後手を振って好きにしろと伝えて店を出た。


預かりものだから、側に置いていた。いつかは返さなければいけないものと思っていたから守っていた。
だが誰に返すのか分からないまま、いたずらに時が過ぎ、香に無為な月日を与えてしまった。

逝った者達が、自分に生き残れと言う。
大切なモノを背負って生き延びろと言う。

家への道は街の灯に照らされて明るい。俺は、いつの間にか駆け出していた。


ただ猛烈に香を抱きしめたかった。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

さよならは、もう。

「一生に一度の想い出にするわ。ありがとう、さようなら。」

それはいつものことだったし、セレモニーみたいなものだった。
出逢って心を近づけても、キスの儀式を済ませた女はみんな去って行き、二度と再びすれ違うこともなかった。

***  ***  ***

あの時、自分が沈みゆく船から脱出できる可能性は至極低かった。
けれど香は違った。自分に背を向けて逃げ出してくれれば、生きて帰れる。
きっとこのジンクスはガラス越しでも守られるだろう。
だからこのキスでさよならだ。でも、香は死なない。いや、死なせない。
こんな冷たいキスで、ごめんな、香。
その唇、どうせなら触れたかったよ…。

「さよならだ、香。」
燎は、ガラスに写る透明なキスマークを名残惜し気に指でなぞった。

***  ***  ***  ***


燎にとってキスは、いつも別れのセレモニーだった。

だから、奥多摩の中心で愛を叫べても、キスをした女とは別れる、というジンクスに怯えて香に手出しが出来なかった。
香と別れずにすんだのは、船でのキスがガラス越しだったからだと本気で思っていた。

それまでだって、例えどんなに愛し合っていたとしても、キスをした途端に何かの呪いのように別れがやって来ていた。
だから香とキスなんかしない。しない方がいい。したくない。できない。
不用意に香とキスなんてして、唐突に別れがやってきたら溜まったもんじゃない。

それに、ユニオンテオーペの魔の手は消えても過去に買った恨みはそれだけではないからいつどこで狙われるか分からないし、生理的欲求が先走ってついやってしまうナンパは毎回香を不機嫌にさせているし、男の依頼を拒否し続けているから香からパートナーを解消されても文句は言えない。
冷静になってみれば、別れを切り出される要素が多すぎた。
おまけに自分はヘビースモーカーだ。「口が臭い」とでも言われたらとてもキスなんか望めない。

とにかく、燎は香とキスすることに躊躇した。怯えたと言ってもいい。

下らないジンクスだと笑われようとも、燎は香との別れの方が怖かった。
思い返してみれば、シンデレラデートの時だって危うく別れのキスをするところだった。
もしあそこでキスをしていたら、今頃一緒にいられなかったかもしれない。

だからこれでいいのだと自分に言い聞かせた。
けれど、口寂しい。
タバコを咥えても口は不味くなる一方で、口寂しさは増すばかりだった。

***  ***  ***  ***  ***


寂しさは酒で誤魔化すしかなくて、その日も歌舞伎町で独り飲み疲れて帰った。
部屋に気配のない香を探してみれば、リビングのソファーで眠りに落ちていた。

「ったく…こんな所で寝るなんて、襲ってくださいと言ってるようなもんだろが…。」
我ながら理不尽な文句を言っていると思いながら、ソファーの脇に座り込み、香の寝息を盗み聞く。

今が食べごろな艶のある唇が目の前にある。
見つめるだけなら大丈夫だ。
指で触れるだけなら大丈夫だろうか?
無骨な指で静かになぞれば、香が拒むように寝返りを打った。

「触らせてもくれないのか?…やっぱり、キスしたらおまえも俺の前から去っちまうのかな…」

座り込んだままジーンズのポケットを探り、拉げたタバコを取り出して咥えた。火を点けようとライターを探したが見当たらない。またどこか飲み屋で置いてきてしまったのかも知れない。

「ま、いっか。」

タバコを吸いたかった訳じゃない。口寂しかっただけだ。
このままでいたらその唇に喰らいついてしまいそうだったから、燎はやれやれと腰を上げて香に背を向けた。

「ぃや…行かないで!!」
唐突な叫びに驚いて振り返れば、飛び起きた香が呆然と宙を見ていた。

「どうした?」
「あ、燎・・・夢、見てた。」
「夢かよ、脅かすな。ったく。」
「だって、兄貴が。」

(出たよ、香の兄貴が。あいつもいつまでも香の中で燻ってないで、成仏しやがれってんだ。)
キスのひとつも出来ない上に、どこかで槇村に見張られている気もして、燎はどうにもケツが痒い。

「あいつが、どうかしたのか?」
不安気な顔で上目遣いするから髪をくしゃっと撫でたのに、香はますます不安顔になった。
なんだどうしたと揶揄うように癖毛を引っ掻き回したら、やっといつもの顔に戻って1tハンマーを飛ばしてきた。


「兄貴もそうやって、たまに頭を撫でてくれたけど、そんな日は決まって仕事で怪我して帰って来た。嫌なジンクスだったわ…あたしもハタチになるし、子供じゃないからもうやめてって、そう言ったあの夜も――」
そして香はみなまで言わず、口を閉じる。

香の頭を撫でて出掛けるのは、槇村のひとつの儀式だったのだろう。

「下らねぇ。」
「え?」
「おまえの頭なんか撫でても撫でなくても関係ねぇよ。どっちにしろ怪我する運命なら、撫でさせといて良かったじゃねぇか。あいつはおまえを猫っ可愛がりしてたんだから。おまえが拒否ってたら、もっと早くにお陀仏してたろうさ。」
「なにそれ?酷い。」
「あ?何がだ。」
「兄貴を早死にさせたがってたみたいに言わないでよ。」
「そんなこと言ってねぇだろ。ジンクスなんてな、気にしすぎなんだよ。」

そこまで言って燎は自分の言葉にハッとした。
ジンクスに縛られているのは自分じゃないのか?

そう思った途端、目の前でアヒル口している香が自分を誘っているように見えるから勝手なものだ。

燎は髪を撫でるふりで伸ばした手をうなじに回し、くっと唇を引き寄せると、躊躇いなくキスをした。
香はメデゥーサにでも出会ったかのように全身を岩のように強張らせたが、唇は存外に柔らかく、溶けるように燎の唇と交わった。
いつも憎まれ口ばかりの唇が、細かく震えていた。
そっと離れて鼻頭を合わせると、まるく見開いた香の目が燎の顔を映していた。
すっかりお熱の上がった頬を、やんわりと両手で包んでやり、再び唇を引き寄せて吸いつくようにキスをしたら、香にシャツの裾を引かれた。
もう少し奥へ…と舌先でつついたけれど、ぎゅっと唇を結ばれてしまった。
拒まれた、のではなく。怯えたようだった。
仕方ないと諦めて、燎は小さなリップ音をさせて唇を離す。


「こんなとこで寝るから変な夢を見るんだ。ちゃんと部屋で寝ろ。」
「…ぅん。」
「おやすみ。」
「…なさい。」

燎は香の髪をくしゃりと撫でると、振り返らずに階段を上がって部屋へ向かった。
背後で香がソファーへ倒れ込んだ音がした。
屋上じゃないから、今晩は風邪をひくこともないだろう。でも、後で様子を覗いてみよう。
眠っていたら、その顔にキスをしよう。
起きていたら、いっそ眠らせないキスをしよう。

キスをしたから別れていたんじゃない。
ただ、またキスをしたいと思わなかった。
それだけだ。
今更そんなことに気づいた自分がおかしくて、燎はひとしきり笑っていた。

明日も香とキスをしたい。きっと、明後日も明々後日も、何度も。


誰かが、家族と恋人の違いは何かという問いに、「さよならを言わないのが家族だ。」と答えていた。なるほど確かにそうかもしれない。

いってきますといってらっしゃい。
おかえりとただいま。
そして、おはようとおやすみ。

明日はいつものとおり、おはようで始めよう。



さよならは、もう、来ない。

焦げた月

穏やかな夜だった。


ベルベットの夜空に引っ掛かった十六夜月が過去への穴を開けて光る。

満月を見逃した二人は、たまには一緒に一杯やるかと缶ビールと乾き物を抱えて屋上に上がった。

濃紺に染め上げられた夜空に、ぽっかり月が浮かぶ。
こんな日は奥多摩あたりに行けば降る星も見られようが、ネオンが滲む新宿では星なんか霞んで見えない。もっとも、今夜は十六夜が明るいから、星も光るのを躊躇っているのかも知れないが。


「お月様が焦げてる…」
「は?」
「月が欠けるとね、影になった所が焦げてるみたいでしょ?それで、言ったみたい。」
「誰が?」
「あたしが。」
「誰に?」
「…兄貴に。」
「なんだ。ガキん時の話か。」

香が黒星の350ml缶を両手で包み持ってちびりと飲めば、燎は500mlのキリンラガーを一気に呷り、クシャッと缶を握りつぶした。

「…今、バカだと思ったでしょ?」
「思ってねーよ。」
「嘘、だって、鼻で息した。」
「なんだそりゃ!鼻で息しねぇでどこでするんだよ。」
「兄貴もそうだった…鼻で笑うっていうの?そういう顔。」
「…へぇ。」

燎は人差し指を引っ掻けて次の一本を開け、溢れ出た泡を啜った。

「…槇ちゃんがねぇ。」
「なによ?」
「おまえを鼻で笑うなんて事、あったのか。」
「…あったわ。今みたいに無知っていうか、メルヘンっぽいことを言った時。」
「はははっ!おまえがメルヘンか。そりゃ、確かに笑える。」

声を出して笑う燎に香はますます仏頂面だ。

「ふーんだ!文学的だね、って褒めてくれた人だっているんだから。」
「ほーぉ。そいつの文才は怪しいもんだな。」
「クラス1国語の成績良かったわよ。」
「…クラス1?」
「中学の同級生。」
「女か?」
「男だけど、なに?」
「…別に」

燎はグイッとビールを流し飲む。

学校も同級生も縁遠いものだから、机並べて仲良くお勉強というシチュエーションが燎にはよく理解出来ない。
ただ、中坊が女子を褒めるのは下心しかないことぐらい分かる。

そんな詰まらない過去のあれこれを掘り返すのは、自分も香も楽しくはない 。そうと知りながら、それでも自分の知らない香を知りたいと思うのは燎の野暮なのかエゴなのか。

喉を鳴らしてビールを飲む香は見慣れたけれど、ビールの味を知る前の香を見ることは永遠に叶わない。

「うさぎ…」
「は?」
「月にはうさぎがいる、ってのも信じてたか?」
「そうよ、悪い?燎はないの?」
「俺は…」

燎はお伽噺を信じなかったんじゃない。戦争や飢餓で毎日生死を突きつけられて、お伽噺を信じることを許されなかった子供だった。

「男はリアリストね…」

香は燎の過去に触れそうな空気を感じ取って話を断ち切り、月を見上げた。

街と月の明かりが混ざって香の横顔を縁取る。香の仄暗い表情は、何処を見ているのか分からなくて、燎も月を眺めた。

香は月を見上げて黙り込む燎の横顔を盗み見る。
燎の目が見てきた過去の一切は、きっと自分には耐えられない景色なのだろう。黒髪を照らす月の光はどうにも冷たくて、香はただ悲しくなった。

同じ月を見ているのに思い巡る過去は違いすぎて、ビールがやけに苦い。

「ちぇっ…。」

燎の舌打ちがしばらくの沈黙を破った。

「どうしたの?」
「ビール、もうないよな?」
「残念ね、これで終わりー。」

香が得意げに掲げた恵比寿様を、燎が上から掻っ攫う。

「あっ、酷いっ。最後の一本なのに!」
「何本目だよ、飲み過ぎだっつーの。」
「燎の方が飲んでる!かーえーせー!」
「やーだねー。欲しけりゃ取り返してみ。」

燎が精一杯腕をあげれば、いくら香でもその手の中の缶ビールに届くはずがない。
ムキになって跳んだりはねたりする様子が面白くて右に左にと腕を振ると、香が足を滑らせた。
膝から転びそうになった香を慌てて抱きとめると、燎の手から恵比寿様が滑り落ち、カンッと渇いた音が響いた。

「ほら見ろ、飲み過ぎだ…」

転がった缶ビールから零れる白い泡を避けて、燎は香の肩を引き寄せた。

「酔ってないから、離して…」
「酔ってる。」
「酔ってない。」
「ダメだ…俺が酔ってる。」

燎は腕の中の香が身を捩るのを許さず、静かに抱き締めた。

都会のど真ん中だと言うのに、どこからやって来たのか秋の虫が屋上の隅で鳴いている。
夜風が頬を撫ぜても少しも寒くない。
香は男の匂いが風に散ってしまうのが惜しくて、燎の首筋へ鼻頭を擦り付けた。

「こんな匂い、知らなかったのに…」
「…?」
「お酒の匂い。」
「当たり前だ。おまえも酒臭ぇぞ。」
「うるさいなぁ、燎のせいじゃない。」
「なんで俺のせいなんだ。」
「燎が飲むから、つられて飲んじゃうんだもん…兄貴は、あたしには絶対飲ませなかった。」
「ばぁか。シュガーボーイに飲ませられるか。」
「もう、違うもん。」
「…そうだな、Sweet Lady」
「え?」

囁かれた言葉は香には聞き取れなかったけれど、燎の甘い声は心地よかった。

過去は二度やって来ないし、どんなに嫉妬しても過去には敵わない。
だが、過去は未来を阻むことは出来ない。
燎と香の未来を見るのは、二人だけだ。

十六夜月は、次の満月への一歩。
人は過去の影を踏み越えて光の未来へ進む。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

02:08 (うたた夢)

その日は強かに酔っぱらって帰宅した。
燎がアパートへ帰りつけたのは、ほとんど無意識の帰巣本能だった。
屋内階段を上がって玄関の鍵を開け、乱暴に靴を脱いで廊下を這って歩く。
自室への階段を上がるのが億劫だった。
燎はジャケットとジーンズを脱ぎ散らかして浮腫んだ筋肉を解放すると、赤Tシャツにトランクス姿でリビングのソファーに沈没した。

燎の意識は真っ暗な泥沼へと引きずられて行く。何度か落ちかけた死への階段に似た闇へ。眠りと死の境目は一体どこにあるのだろう。そんなつまらないことを考えながら枕代わりのクッションを抱けば、綿の塊は燎の腕力になされるままに形を変えた。
だが、抱えても少しの重さも温もりもないそれは、求める肌ざわりとは程遠かった。

瞼の奥で空想し、指先で未だ幻の肌をまさぐる。
栗色の髪を梳き、唇を撫でて、この指を可愛い舌で舐めさせたなら、香はどんな顔をするだろう。濡れた指で喉仏から胸の谷間、臍へと真っ直ぐ撫で下ろしたら、香はどんな声で啼くのだろう。そして香自身すら触れがたいであろう蜜壺をこの指で暴いたとしたら…
そんな妄想だけで燎の下っ腹に熱が走った。
けれど、本当に抱き締めたなら、もがき苦しませ、粉々にしてしまう気がする。そう考えたら頭の中で舞っていた香の姿が闇に消えた。
背筋に走った悪寒に震え、ぐっと拳を握れば、瞼の奥にまた闇が広がり、睡魔が燎を呑み込んでいった。



「ほら、急がなきゃ。」
耳元で妙に甘い声が響いた。
気怠く瞼を押し開けば、そこには、バニーガールスタイルの香が立っていた。
右手にミルクパン、左手にゴムベラ

「は?」
「あぁ、間に合わないわ。」
燎の鼻先へぴょんと近づき、トロリと溶けたチョコレートをゴムベラで掬い上げた。

「すぐに出来るから、動かないで。ね?」
「え?」
見れば、燎のもっこりにチョコレートが塗りたくられている。

「チョコバナナを食べるのよ。」
「へ?」

香の手から飛び出したミルクパンとゴムベラに足が生えて踊り出し、ケラケラと笑っている。
香が茶色いもっこりに手を伸ばし、そっと握った。

「かおっ…?」

(ウソだ、ダメだ、絶対にダメだ。てか夢だ!しっかりしろ、俺!)
燎は必死に頭を振って腰を引こうとしたが身体が動かない。近づいてくる紅い唇から目が離せない。そうこうしていると、香の指がもっこりに塗られたチョコレートをしごき上げ、白い指にドロリと茶色の物体が絡みついた。鼻につく甘い匂いが広がり、燎は我慢の糸がキュキュッと音を立てて伸びる音を聞いた。

「美味しそう。」
「ちょ。」

丸く開かれた唇から濡れた舌が覗く。
何をする気だと叫びたいのに喉が詰まって声が出ない。
それどころか溢れんばかりの生唾で窒息しそうになる。

「舐めちゃうね。」

(ダメだ!ダメだダメだダメだ!いくら夢でもいきなりそんなのダメだ!)
燎の我慢の糸がプップッと音を立てて切れ始め、もっこりが破裂寸前の太さになった。
それでも声にならない叫びで香を振り払おうと足掻いてみたが、腕が重くて動かない。



「か…おり 。やめ…」

掠れ切った自分の声で、ハッと目覚めた。
天井を照らすオレンジ色の常夜灯が目に染みて、現実に戻ったことを知る。
下衆な夢だった。いくらなんでも酷すぎる。
燎は脇の下にも額にも嫌な汗をかいていた。

原因に心当たりはあった。最後に行ってバカ騒ぎをしたゲイバーだ。絶対にそうだ。
テーブルに並べたチョコバナナをパン食い競争よろしく争って食べるゲーム。あれだ。

額に浮いた脂汗を拭おうとしたが、腕が上がらない。何事かと自分の腕を見た燎は、その光景に目を疑った。

(は…? 香…?!)

香は燎の二の腕を枕にして寝息を立てている。
つまり、腕枕。
長い睫毛は焦点が合わず、ボケる程に近い。近すぎる。燎は何度も目を瞬かせ、息を飲んだ。息を詰めると心臓が暴れた。仕方ないから深呼吸する。
まさか、正夢ということはないよなと恐る恐る見回すが、ミルクパンもゴムベラもない。
香はいつもの色気のないパジャマ姿だ。
床に座り込み、燎がソファに投げ出した左腕に手を添え、頬を乗せ、気持ちよさげに眠っている。

燎は天井を眺めながら深く息を吸うと、安堵とも失望とも分からない溜息に変えて吐き出した。

(それにしても、なぜここに?)

香を起こさぬよう辺りを見回してみれば、腹に絡みついたカーキ色の毛布が目に入った。

(あ…そういうこと、か。)

酔っぱらって帰宅してソファーで眠ってしまっても、いつの間にか毛布が掛けられることは多々ある。今夜もそういうことらしい。

こんなに深酒をして、正体不明で眠るなんて以前は考えられなかった。
どこにいても、誰といても眠りは浅く、愛銃は手離さない。
何十年もそうして眠って来たし、それ以外の眠りなど知らなかった。

腕に触れる香の頬が柔らかい。

燎は香がなぜこんな風にうたた寝をしてしまったのか一秒だけ悩んだけれど、二秒目にはそんな事はどうでもいいとあっさり放棄した。

密やかに自分の呼吸を香の寝息に重ねれば、まるで子守歌に身体を包まれたように心地よかった。
リビングに響くのは、香の寝息と規則正しく進む時計の秒針の音だけ。

(少しだけ…)

少しだけ、この甘い熱を味わいたい。
静かに首を傾ければ、視界はほんの少し唇を緩めた無警戒な香の寝顔で一杯になった。

愛おしい。

知らず知らず口の端に笑顔が浮かぶ。このまま香を見つめていたいが、風邪をひかせたくもない。燎は自分の腹の毛布を香に掛けてやろうと試みたが、身体を捩じれば腕が動いて香を起こしてしまう。目覚めて欲しくない。ならば足でと足掻いてみたが、もたついてこれも上手くいかなかった。

(参ったな…)

実は困ったことなど何もない。このまま朝まで眠ってくれて構わない。構わないけれどこの状況で冷静を保てる自信はないし、かといって夢見心地の香を押し倒す勇気もない。今更強調することでもないが、燎はすっかり香に参ってしまっていた。

一体どうしたものかと天井を眺めたら、香がふっと息を浅くした。
目覚めそうな気配に、燎は慌てて狸寝入りする。


「ぁ…いけない。寝ちゃった…」

香は燎の腕から頬を離し、まだ眠る燎の頬をつついてみたが目覚める気配はない。

「もう…。飲み過ぎだよ。」

香は燎の手を取ると、そっと自分の頬に当ててみた。自分の手より一回り大きくて熱い掌は、香の頬をすっぽりと包んだ。

温かい香の頬に燎は我慢が効かず、指先でわずかに香の耳朶を巡った。
夢の中ではいたぶる様に抱く時もあるくせに、現実は指先が震えるほどに臆病だ。

指先に触れる香のやわらかな耳朶。それだけで燎の身体は疼きを覚えた。

(燎ぉ…?)

寝ぼけているのか、それとも…?
燎の指先に触れられ、香は戸惑いながらも胸を高まらせえゆく。

「ん…っ」

燎が人差し指の先だけで何度も何度も柔らかな耳朶を撫で擦り、弄ぶと、熱を帯びた香の吐息が燎の額にふわりと広がり、堪らない疼きがザワザワと音をたててもっこりへと駆け上がってゆくのが分かった。

(ダメだ、これ以上…)
燎はごくりと喉を鳴らして唾を呑み込むと、必死に手の力を抜いた。


不意に離れた燎の指先に、香は溜息を吐く。
「…寝ぼけたの? 燎…。」

誰かとお楽しみの夢でも見ていたに違いない。
先程まで自分の耳朶を撫でていた指先が口惜しくて、香は小さくキスしてみせた。
「気づくわけ、ないか。」

キシキシと廊下を鳴らしながら香の気配が遠のき、パタンと扉の閉じる音がした。
再び静寂に包まれたリビングで常夜灯に目を凝らせば、オレンジの明かりが目に染みた。

(ばぁか…寝ぼけたフリだって分かれよ。)

次はきっと寝ぼけたふりなど出来ない。
次こそはきっと押し倒してやろうと密かに誓い、燎は眠れない夜に瞼を閉じた。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

流れる涙は宝石のようで



眠る香の頬を伝う涙を何度拭ってやったことだろう。

人はいつ、子供から大人になるのだろう。
20歳になったとき? 親元を離れたとき? 自分で稼げるようになったとき? 子供を産んだとき? それとも…人を愛したとき?
香は一体、いつ大人になったのだろうか。
初めて出逢った香は、年齢は子供だった。けれど自分なりに兄貴を守ろうと必死だった香は、既に大人だったと燎は思う。


早くに親を失くした子供は駆け足で大人に成らざるを得ない。
自分は槇村家の実子ではない。それを知った時、香はガラスの橋を渡っている気分になった。ガラスでできた脆いその橋を渡るには、何をするにも慎重に素早くしなければならなかった。子供というガラスの橋を渡り切れば大人の世界がある。早く渡り切ろう。慎重に素早く渡り切ることができれば大人になれる。大人になれば槇村父子と本当に親子になれる。香はさしたる根拠もなくそう信じていた。
渡り切ったと思った時には槇村の父は他界してしまっていたけれど、兄貴と呼んだ秀幸とは対等に家族の道を歩んで行けそうだった。これからもっと家族になろう。
香がそう思った矢先、兄貴が死んだ。


『流れる涙は宝石のようで』

新宿の街角でそんなコピーが書かれたポスターをぼんやり眺める。
(涙が宝石のように見えるなんて、あるのかしら…。)
涙を流すことすら忘れた香には、意味が分からなかった。
涙が宝石に変わるならいくらでも泣いてやると思いながら、今日も伝言板に向かう。
結果が空振りなのも最早日課だ。哀しみの涙も出てこない。

「はぁぁ。」
「どったの香ちゃん?」
「涙が宝石にならないかしら…」
「は?何言ってんだ。」
「歌にもあるじゃない。真珠の涙とか。」
「どんだけがめついんだおまえは…」
「お陰様で。ダイヤにならない涙は流す気もありません。」
そう言ったら燎がバカみたいに大笑いしたから、香の涙は益々どこかへと消えた。


「あんたには新しいパートナーが必要でしょ。」
そんなセリフに押し切られた格好で受け入れた香は案外大人で、槇村の死に泣き喚くこともしなかった。無論、部屋で独り声を殺して泣く香を知っていた燎だけど、そ知らぬふりしかしてやれなかった。

やがて、自分が泣かせるようになると、燎はさらに香の涙を見られなくなった。
子供の涙と思っていたのが女の涙になるなんて想像もしていなかったから。

いつの頃からか、時折覗き見る香の寝顔には、涙の痕があった。
夢で泣かせているのは自分か、槇村か。それとも別の何かか。
燎はただそっと拭ってやるけれど、その涙の理由を探る勇気はなかった。


「ありがとう。」
真っ直ぐに流れ落ちた涙が剣の様に燎の胸を貫いた。
香を受入れようか手放そうか悩んだ末に、パートナーにすることを何とか決意した燎に香が見せた涙。
それはとても嬉しかったけれど、燎は怖くて触れる事のできない涙だった。



「痛かったか?」
燎は香の目尻から細く流れ落ちた涙を拭わなかった。
少々身勝手に抱いた夜に香の頬に光る涙は、少しの間だけ眺めていたいからだ。
「イジワル…」
「おまえにだけな。」
「なんでよ。」
「なんでも。」
屈強な腕を枕にして燎の横顔を眺めると、唇にはイジワルな笑みが浮かんでいた。
想い合ってからも、燎はどうも香に優しくない。
恋人同士になったなら、優しく甘い言葉をかけてくれるものと思っていたのに、燎の態度はさして変わらない。触れる手がとても優しいだけに、香はそれが不思議でならない。

「海坊主さんもミックも優しいのに …きゃっ。」
香のぼやきに腕枕がいきなり外され、黒い瞳が香を真上から射抜く。

「俺は、優しくなんかしない。」
「なんでよ。」
「見たいから。」
「何を?」
「涙。」
「は?」

燎は大きな手の平で香の腕の内側を舐めるように撫で、ゆっくり指先を絡ませた。
両手を絡めとられた香は蜘蛛の巣に捕らわれた蝶のように動けない。

「おまえの涙が見たいの。」
「な、なんでよ…」
「綺麗だから。」
「…うそ。」
「嘘じゃないさ。」
「…ホント?」
「あぁ、宝石みたいだ。」

イジワルな笑みの唇でゆっくり近づき、香にキスをする。
香は自分のまつげに、宝石のようにキラキラと光る涙を見た。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

君の名を

ニセモノでなければ新宿では生きて行けない。





燎は今晩もミツバチのように夜の花から花へと飛び回る。

「やっほー。ルナちゃーん。ねぇねぇねぇ、その満月のお胸に飛び込んでいいかなー!」
「燎ちゃんならオッケーよぉん。」

「あっ!スミレちゃん。今日もスキャンティーは紫色かなぁ?」
「ぅふ。のぞいてみる〜?」

「ぁっあーん、燎ちゃん素通りなんてひっどーい。」
「ぉわ、ホーリーママ!今日はまた奇っ…綺麗だ、ね ははは。」

すれ違う毎に呼び合う名前は、仮面の名だ。
新宿では誰しもが本名など名乗らない。

過去を捨てるため、日常と切り離すため、誰かから逃げるため。
そんな理由で誰もが仮面の名を持つ。

燎は、本名が分からない。

けれど、どうせ死ぬまで何者なのか分かりもしないのだから、名前などどうでも良いと思っていた。
海原がくれた名前に愛着はあるけれど、執着はなかった。

名前なんてただの識別記号みたいなものだ。
捕虜になればどんな名前も、あっという間に1、2、3にすり替わる。
敵に捕まれば、せめてラッキー7の名前に当たるよう祈るだけ。
誰もが、名乗ろうともしない。


新宿で夜の蝶に本名を問うのはタブーだ。
けれど、女は燎に本当の名前を呼んでほしいと強請った。


「本名はね、直子っていうの。つまんない名前でしょ?」
「そんなこたぁないさ。」
「一度でいいの。燎さんに呼んでもらいたいの。」
「その名前を呼ぶのは、俺の役目じゃぁない。」
「…ダメなの?」
「あぁ。」

女が望んだのは、ひと時の真実の恋。
ほんの一瞬真実の自分に戻りたかっただけ。

女は疲れていた。

新宿で生きてゆくだけの若さも力も失いつつあって。けれど自分に戻る勇気もなくて。
だから、最後にほんのひと時の正夢を見て終わりにしようと思っていた。

「…キャサリン。俺は、新宿のキャサリンを愛してたよ。」
「本当?」
「あぁ。」

その夜、新宿からキャサリンが消えたけれど、翌日の夜には別の女がキャサリンになることだろう。
バスターミナルでキャサリンを送り出したら、もう深夜2時だった。
近頃は吹く風が冷たくなって、愛用のショートジャケットではさすがに寒さを覚える。


「香のやつ、コートをどこにしまい込んでくれたんだ…?」

出掛けに着ようと思ったのに、クローゼットにコートが見当たらず、仕方なくジャケットで出てきたのだ。

「コートは洗うなって言ったのに、洗っちゃうもんなーったく。香め。」

「2時過ぎたかー、いくらなんでも寝てるよな。うん。…そおいや、今日はハンマーなかったなぁ、あ、もう昨日か…」

アパートへの帰路を行く燎は、その発言とは裏腹に、楽しそうに呟く。

香の名前を口にするのが幸せでならない。
もう数え切れないくらいにその名を呼んで、まだ呼び足りない。
「香」と、口にする度に香が近くなる。
「燎」と呼ばれる度に、「燎」の名が真実になってゆく。
記号でしかなかった「サエバリョウ」に、温もりが宿る。

カチリと静かに玄関を押し開け、気配を消して香の部屋に忍び込む。

「カオリちゃーん。燎ちゃんのお帰りです。」

吐息でそっと囁けば、僅かに香の頬が動いたけれど、すぐにまたしどけない寝顔になる。

「おやすみ。香」

明日も早朝から大声で叩き起こされるだろうことを期待して、燎は穏やかに眠りについた。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

花守

燎は生きがいを知らなかった。
小さな花を託されるまで。

その日から、燎は花守になった。

まだ蕾も硬いその花は、どんな色でどんな花かも分からなかったけれど、日々ぷくぷくと膨らんでゆく様子は可愛らしかった。
日差しの穏やかな日は静かに見守り、風雨の激しい日は自分の体を盾にして守ってやった。
風雨は体が冷たくて堪らないけれど、そんな時は手の中に蕾を抱けるから、花守の仕事も悪くないと思った。

そしていつのころからか、蕾が花開く日を夢みるようになっていた。
いつ、どんな花が咲くのだろうかと心を躍らせた。

花が咲いてしまえば、花守の役割が終わるときだと分かっていても、
目の前で綻んでゆく蕾の美しさに、心は奪われていった。

やがて花は、艶やかなベルベッドの花びらを開き、甘い薫りを放って知らせた。

「見て。あたし咲いたのよ。」と。

その時、燎は自分が咲かせた花に息を呑んだ。
美しく咲いたその花を手折って思い切り抱き締めたかった。

けれど、それが許されよう筈もない。
自分は花守なのだから。


「槇村、おまえが育てた花が…香が、綺麗に咲いたぜ。」

燎は花を託した男を少しだけ恨みながら、香が入れたコーヒーを飲んだ。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

KAIBA

Author:KAIBA
CITY HUNTER二次小説の迷宮でございます。

カレンダー(月別)
05 ≪│2018/06│≫ 07
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリ
最新記事
カウンター
CityHunterAnthology2014
参加しました!!
種馬アンテナ
お世話になっとります<(_ _)>
リスペクト サイト !!
検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。