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はじめに

初めまして。

こちらは、KAIBAが運営するCITY HUNTER(北条司 氏原作)の二次創作ブログです。

2012年秋頃、本屋でエンジェルハートを見掛けたところ、
AHがなんとCHの巻数(Jump Comic全35巻)を越えていた!!
学生時にCH連載をタイムリーに読み(…〇十年前です(汗))、
当時ハマりまくっていた私には、AHはずーっと受け入れがたかったのですが、
今はもう通巻40(1stシーズン+2ndシーズン)(2013年11月現在)。
ある種のショック(?)を覚え、ついAH大人買い、一気読み。
(AHついては、「考察」でそのうち…)

で、一気読み後にCH熱が再炎上。二次創作サイト読みまくり。
で、みなさまの二次創作に共感したり、感服したり…。
で、自分の妄想が暴走したのがコチラのブログです。

主に、原作では描かれていない“隙間”の勝手な解釈と、
最終回~数年後のRyo&Kaoriを想像した内容ですが、
思いっ切り管理人KAIBA解釈のR&Kです。
なので、北条先生原作の世界観を崩したくない方は、早々にお帰り下さい 。
ここでお帰りにならず、内容に不快を感じた場合の責任は負えませんのであしからず。


★ 本ブログは個人的な趣味の範囲で開設したブログであり、
  原作者、各出版社、テレビ局等各関係者様とは一切関係ございません。
  また、全ての作品はフィクションであり、
  実在の個人・団体・事件等とも一切関係ありません。

★ 管理人はブログ&二次創作の知識がアヤシイので、色々不手際があると思います。
  予めお詫びいたしますm(_ _)m
  心優しい方々のアドバイスお待ちしています。

★ 拍手・感想・ご意見大喜び。リクエスト(あるかいな…)随時募集。荒らし御免。

★ CITY HUNTERファンに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
  ご連絡頂けたら更に嬉しいです。
   リンク用URL:http://kiaab.blog.fc2.com/blog-entry-1.html
   ブログ名:Buliitt…その破片

★ 本ブログ内で発表した作品の使用、転載、引用及び各記事の直リンクは許可制です。
  使用などをご希望の場合は、コメントへ非公開でご連絡下さい。 
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★ 本ブログ運営に際してのガイドライン
① 本ブログは、原作者北条先生及び関連の著作権所有者から
直にツッコミが入ったら、即時撤収します。
② 内容につき、関係官庁から法的ツッコミが入ったら即時撤収します。
③ 管理人は、原作のコピートレース、コラージュはしません。
(「戯言 そもそも論」のみ例外)
   模写については、原作の引用部分を明記します。
④ ご訪問者からのツッコミは拝聴しますが、ブログ撤収はしません。

 
★ 基本設定:
(長編)原作エピソード+原作終了数年後
(短編)原作設定+〇年後?(ご想像におまかせ)

★ 登場人物:原作キャラ+オリジナルキャラ
★ 冴羽リョウ:冴羽燎と表記します。
★ 原作引用:引用箇所についての注記は、『CITY HUNTER COMPLETE EDITION』
 (徳間書店)の巻数とエピソード番号を示します。解説では、『CH C/E』と略します。
★ 更  新: 1~10日に一度が目標です f(^_^;

★ こんな2人もありよね!!
 と、おおらかに受け入れて下さる方、どうぞコチラのアナザーCHワールドへ!!

since 2013/ 3/26

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目次

目次
★CITY HUNTER 二次小説(長編)

※発表順です。( )内は、お話の設定年月です。

「花信風」全18話(1992.3)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18

「青嵐」全21話 (1992.6)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21

「つむじ風」全30話(1993.9)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30

「つむじ風の足跡」全5話(1993.10 「つむじ風」のおまけ話)
1、2、3、4、5

「透間風」全37話(1991.11)
pro、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、epilogue

「春疾風」 連載中(1991.9)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、

★CITY HUNTER 二次小説(短編/時間シリーズ)
※ 発表順ではありません。お好きな時間をお楽しみください。
00:2001:1001:4502:2005:2509:5511:4512:5513:3014:4015:1015:5016:1517:1019:1019:5020:15【A面】20:15【B面】22:2022:50【A面】22:50【B面】

★CITY HUNTER 二次小説(短編/Newsシリーズ)
※発表順です。

三保の松原24億円?イリノイの遺品懲り五輪?中秋の月光に60年の家族(前)、(後)それでも、だから、これからを憲法記念日ブリタニ―29

★CHの考察
※発表順です

Report#1. メディアミックスReport#2. 城市猎人 (中国版「シティーハンター」)/Report#3. 冴子&海坊主
Report#4. 神回の音効report#5 冴羽リョウのもっこりについての浅はかな分析report#6 「愛宿」が凄かった件

★賜物
小谷野さま」/「ヨフカシさま、えびすなさま」/「あさのみさま

★イベント
「City Hunterへの依頼大募集」(御礼)/「調査報告書/PROJECT O-31」/Trick-or-treat!

春疾風-epilogue

ひしゃげた煙草に火を点ける。
愛用のジッポは、数日前にツケの質草にとマスターへ預けていたのだった。そんなことすっかり忘れていたのだが、香がいつの間にか質出しして取り戻し、リビングの灰皿へ戻してくれていたらしい。

「酔っぱらってたから覚えてないでしょ。でも、燎ちゃんがジッポ置いてく度に香ちゃんがこまめにツケを払いに来るから逆に申し訳なくて…困るんだよね。」
「ツケ払ってなんで文句言われなきゃなんねーんだ。」

手元に置かれたグラスを乱暴に煽ると、自分で払いに来たことなんか一度もないくせに。と詰られた。

「ったく厭らしい奴だよお前は。そんなものでカオリの愛情を量るなんて。」
そう言って、隣に座る金髪堕天使が俺の手からジッポを掠め取る。
「リョウ、香がいつジッポがないって気づくか試してるんだろ?好きな男の愛用品が見当たらないとなりゃ、探してやりたいと思うのが女心だもんな。そうやって愛されてるのを確認したいんだろ?」
「はぁ?! 燎ちゃん本気?」
「んな訳あるか!!」

唾を飛ばして否定してみたものの、マスターもミックも小馬鹿にした笑みを浮かべるばかり。
確かに、香が俺のライターひとつにも気をかけてくれていると知った時には胸がくすぐったくて、つい悪戯心で何度か同じ事をした。だが、もうやるまい。俺はそう心に誓い、ミックの手からジッポを奪い返してポケットに捻じ込んだ。


「で、どこまで奴らを追っかけて行ったんだ?」
「成田。」
「ご苦労なこったな。奴らの行き先は分かったのか?」
「あぁ。やはりP国だった。」
「NSF研究所から消えたアメリカ人研修生は?」
「そいつは、もうアメリカのメディカル・フォー本社に戻ってる。NSFには、業務の関係で研修は急遽取り止め。無断で帰国して申し訳ないと電話が一本入っただけだったらしい。」
「球根は取り戻せずじまいか…。」
「仕方ないだろう。だが、球根がP国に持ち込まれれば、メディカル・フォーの陰謀の証拠とできる。そうすれば…」
「P国への軍事支援を画策したってことで、メディカル・フォーを叩けるわけか。」
「そう言う事だ。そうなればあの球根は表には出ないさ。」
「ま、すっきりはしないが良しとするか。」

火野と菜都芽には、犯人はメディカル・フォーで、球根はアメリカ当局が処分したとでも伝えればいいだろう。

「ところでミック、お前はこの事を記事にするのか?」
「いや。」
「何でだよ。スクープじゃねぇか。」
「生臭いニュースは苦手なんだ。」
「ま、書かなくても高額報酬が手に入るか。」
「リョウ…何が言いたい?」

白い手袋で弄んでいたグラスをカウンターに置くと、ミックは鋭い目で俺を睨んだ。

「WEEKLY NEWSの特派記者に“ミック・エンジェル”なんていねぇ。」
「調べたのか?」
「俺の情報網をバカにするなよ。」

さゆりさんに電話一本かけて聞いただけだが、彼女はミックの存在を露ほども知らなかった。日本支部の編集長だった彼女が知らない特派記者などいる筈がない。

「お前の親父さん、上院議員だったよな。」
「……。」
「裏稼業やってたお坊ちゃんが、やっと父親の役に立てるってとこか?」
「うるせぇ。」
「お互い親父には苦労するな。で、FBIか?」
「だったらどうする?」
「別に。お前がどこの誰と仕事をしようと俺らには関係ない。だが、かずえちゃんは泣かせるなよ。」
「ふ~ん“俺ら”ね。」
「うるせぇ。大体、おかしいと思ったんだ。裏稼業やってた奴が唐突にアメリカの一流紙の特派記者だなんてよ。そもそも、そんな危なっかしい転身なんかできる訳がない。裏で買った恨みを自ら表に曝け出すようなもんだ。」
「ま、リョウにはその内バレるだろうと思っていたが。…かずえには黙っていてくれ。」
「家族にも身分は明かせない。スパイの掟ってやつか。」
「カオリにも、黙ってろよ。」
「誰が言うか、馬鹿。そもそもあいつはお前の秘密になんか興味ねぇよ。」
「惚気か? 自分はもうカオリに隠し事はないってわけか。」
「ふん。」
「ま、多少立場は変わったが、今後も頼むぜ、相棒。」
「じょーだんじゃねぇ。俺の相棒は香一人で十分だ。」

何杯目かのバーボンを飲み干して席を立つ。ミックがまだ付き合えと目配せしてきたが、そんなものは無視して家路についた。

12時前に家に着けば、玄関でパジャマ姿の香と鉢合わせした。
「おかえり燎、早かったのね。」
いつも変わらぬ迎え言葉。それが、今晩はやけに嬉しかった。

「ジッポ、サンキューな。」
「え?」
「バーに取りに行ってくれただろ。」
「あぁ…。だって、好きなんでしょ?」
「へ?」
「そのジッポ。」
「あ、あぁ。」
「好きなら質草に置いてきたりしなきゃいいのに。」
「…そうだな。もう、しないよ。」
「そうかしら。」
「しねぇよ。俺だって…好きなものは失くしたくない。」
「そう。」
「あぁ。」
「あたし、もう寝るね。おやすみ」
「おやすみ。」


好きなものはジッポだけじゃない。そんな意味も込めて見つめてみたが、香にそんな変化球は通じなかった。まぁいいさ。きっと俺達の春は近い。そんな予感がしてならない。
春疾風が俺の背中を押したら、その時は、香に甘いセリフのひとつも言ってやろう。

(終)


「始末書」 よろしければ、読了後にお付き合いください↓↓↓

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テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

春疾風-31

俺はゆっくり香の背中に回り込み、同じ夜景を眺めた。
新宿の光は美しいものばかりじゃない。闇を照らす光もあれば、闇を濃くする光もある。新宿を根城にする者たちと同じ数だけ灯りの種類があるのだ。
――今、香の瞳に映っているのは、一体どんな灯りだろうか。

かける言葉を探しながら、俺は香の白いうなじを見ていた。
シュガーボーイの髪型に戻ってからというもの、白いうなじに目が行って仕様がない。
今まで癖毛に隠れていたその肌は光る産毛も柔らかく、俺の心に小波を立てる。

「…冷たいのね。」
「あ?」
「慰めてもくれないの?」
「慰めて欲しいのか?」
「だって…。」

香は顎を肩へと引き寄せて少しだけ振り向くと、憂い色をした瞳で俺を見た。
だって、何だってんだ? だって、失恋したんだから?だって、パートナーなんだから?だって、俺が悪いんだから?だって?だって?だって…?

解けないパズルのピースとも知らず、男は必死に”だって…”の次の言葉を探る。だが、後に続く言葉を答える女はいない。そもそも、後に続く言葉などないからだ。けれど男は、否定でも肯定でもないこの謎の言葉に惑い、悩む。
香、おまえはひとつ失恋しただけで、男を惑わす言葉まで覚えたのか?

「じゃ、慰めてやろうか?」
「…いいわよ、別に。」
「別に、って何だよ。」
「別に…なんでもない。」

強がった口調で視線を街の灯りへ戻し、欄干に持たせかけた腕に顔を埋める。
背中を丸めたそんな姿、どう見たって“何でもなくない”。

「女はさぁ、何かある時に限ってそう言うんだよなぁ。」

後ろから揄い口調で突っかかると、香はピクリと肩を怒らせた。

「本当に何でもない!」

顔が見えなくても、尖った口調で相当なふくれっ面をしている事ぐらいわかる。
女扱いすれば、パートナーとして見ていないと不満顔をするし、女扱いしなければ、ハンマー振り回して嫉妬をぶつけてくる。全く、可愛いやら可愛くないやらで、俺は小さく溜息を吐いた。

しばし沈黙した二人の空気が、遠くから流れてきた街の喧騒で揺れた。

「本当に、何でもないか?」
「どうせ、あたしのことなんかどうでもいいでしょ。」
「そんなこたぁないさ。…パートナーだし。」
「…気になる?」

囁くような声に身体の芯が騒いで思わず抱き締めたくなったが、俺は衝動を堪えて両手を伸ばし、欄干を掴んだ。香は俺の腕と欄干に囲まれ、まるで小さな檻に捕らわれた小動物みたいだ。
ふわりと顎を掠った香の柔らかい髪に俺は肘の力が抜けてしまい、また半歩近づいた。香はますます肩を窄めたけれど、俺の囲いから逃げようとはしなかった。
俺の胸には香の背中の温もりがある。

「まぁ、なんだ…とりあえず、失恋おめでとう。」
「おめでとうって、何よ。」
「貴重な体験だろ?」
「どうせあたしは大した恋愛してないわよ。」
「じゃ、叶えば良かったか?」
「そ、それは…分かんないけど…失恋するよりいいわ。」

ふん、と鼻白んでそっぽを向く。

「冗談じゃねぇ…何で俺が失恋しなきゃいけないんだ。」
「はぁ?失恋したのはあたしよ?!」
「そうだよ。だから良かったって言ってんだ。」
「よくないっ!」

俺の顔が見えない苛立ちからか、香がボルテージを上げた。

「おまえの恋が叶っていたら…俺が、失恋してたのに?」
「そうね、残念だったわね。菜都芽さんに振られて。」
「…バカ。おまえが火野と上手くいってたら、俺は今ごろ菜都芽ちゃんともっこりナイトだ。」
「…え? ぁ、そっか。え~っと…」
「―― 言っとくが、俺はBLに興味はないぞ。」
「え…  燎、それって…?」

振り向こうとした香をぐっと欄干に押し付けた。
香の背中の温もりが一層胸に広がって鼻の奥から目頭のあたりがやけに熱くて、唇が緩んでしまう。きっと、猛烈に赤い顔をしているに違いない。こんな顔、香に見られてたまるか。

俺は、上がる熱を誤魔化すように声を張った。
「あのなぁ、たかが一回失恋したくらいで落ち込んでんじゃねぇぞっ!」
「そ、そんな事ないもん。何度も何度も失恋してるもん!」
「?!……何度も?」
胸の奥に針の痛みが走る。香得意の強がりか、それとも俺の知らない事実か。

「そうよ!殆ど毎日よ!」
「あぁ? 毎日って、なんだそりゃ…。」
「毎日毎日…燎が、ナンパに出るたび…もう、やだ。」

小さく消える声に欄干を握る手に力が籠る。抱き締めてしまいたかったけれど、今は違う気がしてぐっと堪え、そっと自分の黒髪を香の髪と絡ませた。

俺の心は、恋から愛へと変化したのか、愛から恋へと変化したのか。それとも恋と愛が増減を繰り返して来たのだろうか。
叶えてはならないと思えば胸の奥で狂おしい想いが暴れ、叶えたいと思えば我儘な想いが身体を狂わせる。
答えは分かっているのに悩みと迷いが脹れるばかりで、どうしても結論にたどり着けない。
そうだ。随分と前に俺は答えが分かっていた。

俺は、失恋を恐れていた。

香に振られることを恐れて、ただ振られない様にやり過ごしていた。
香は、この恋を叶えたいと願い続けてきたに違いない。それを俺は、叶わなくていいから失わないようにと翻弄してきた。
香の恋心を受入れる余裕なんてなくて、ただ自分が失恋しないように逃げ回っていた。
手に入らない恋でも失いたくなかった。想いなんて通じなくてもこの恋が目の前にあり続ければそれで良かった。

…どれだけ勝手なんだ。
俺は目を瞑り、頬に香の髪を擦り付けた。

「おまえが失恋することは、ねぇよ…。」
「な、なんで?」
「おまえのお陰で、俺のナンパは失敗続きだ。」
「…悪かったわよ。仕事以外は自由恋愛だって言いたいんでしょ!」
「そのとおり。ま…どれも失くしても惜しくない恋だったけどな。」
「燎…失くしたくない恋、あるの?」

その問いに俺は口を噤む。

失くしたくない。けれど、手に入れたものはいつか失くしてしまう気がして。だから、失くさないために手に入れない。入れたくない。
悪いな、俺はまだおまえを手に入れるのが怖いんだ。

欄干から離した両手を香の肩におけば、怯える様に小さく身体を震わせた。
香の肩はか細くて、俺の想いを背負わせるには忍びない。
だから俺は、愛しい髪へ沈黙のキスをした。

「…冷えて来たな。」
「う、うん。」
「…もう、部屋に入れ。いつかみたいに風邪ひかれちゃ困る。」
片手で優しく肩を押し出せば、くるりと回った香の身体は部屋への出入口に向いた。

「あ…。」
「いいから寝ろよ。洗濯物は俺が取り込んでやるから。」
「あ、ありがと。」

夜の光にほんのり照らされた香の微笑み。つられて笑顔を返したら、昼みたいに明るい笑顔が戻って来た。

「おやすみ。燎」
「あ、あぁ。」

明日からまたあの笑顔を独占できると思ったら、イケナイ妄想が鎌首をもたげた。
いかん。俺、今晩寝られるのか?


「春疾風-epilogue」につづく

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

春疾風-30

ノックもせずに覗いたが、やはり部屋に香の姿はなかった。
明かりは消えている。数分の電気代も気にかける香は、トイレ以外必ずスイッチを切る。つまりトイレではない。だが、リビングにもキッチンにも姿はなかった。階段ですれ違ってはいないから外出はしていない。

(…どこだ?)
気配を探る糸を張り巡らせると、その内の一本が香に繋がった。
(屋上か…)

鉄扉を押し開けると、冷え始めた夜風が幾つもの白い影を揺らし、俺の視界を遮った。だが何の事はない、よく見れば洗濯物だ。
そして、その影の隙間に探していた細い背中を見つけた。

「なぁにやってんだ。」
突然の俺の声に、香が一瞬背中を強ばらせた。
「洗濯物、取り込んでなかったから…」
欄干に靠れて街を眺めたまま、振り向かずに言う。
「あー…出突っ張りになると思わなかったしな。」
「…うん。」
小さく頷くと、益々背中を丸めた。
俺は、強がる女の背中に掛ける言葉が見つからなかった。

考えてみたら、今朝まで火野はこの家の中にいたのだ。
今日一日は確かに目まぐるしかった。
事件の展開も、火野と菜都芽の関係も、朝食の時点では予想だにしていなかった。
しかし、そんな事は俺達にとって珍しくはない。事件はいつだって予告なく変化する。そんな事は香も慣れっこのはずだ。だが、香の気持ちは…心は、どうだろうか。事件が終わったからと言って同時に片付いたとは思えない。

洗濯物の波を掻き分けながら近寄ると、少し振り返った香が片目だけで俺を見た。
街の明かりを背にして欄干に寄り掛かって視線を合わせたが、香は逃げる様にその瞳を夜の街の方へと逸らしてしまった。


「信司先生、大学に戻れるかな…」
「大丈夫だろ。今回の事も…悪気はねぇし。」
「そうよね。また菜都芽さんと一緒に研究ができるようになるわよね。」
「あぁ…。」
「お花屋さん、やめちゃうだろうな。」
「それはーー。」
「やめちゃうよ。ううん、やめた方がいいよ。」
「おまえ、フラワーアレンジメントとやらはどうするんだよ?」
「…もういいわ。大学に戻ったら信司先生も忙しいでしょうし。」

そっと横顔を盗み見れば、やたらと瞬きをする香のまつげに堪え涙の粒が光ったものだから、俺は星もない空を仰ぐしかなかった。

「信司先生…5年も経っても、やっぱり、菜都芽さんのことを嫌いになってはいなかったのね。」
「…男の方が未練がましいからな。たとえ別れても、嫌いになることはないさ。」
「そうなの?」
「男は…女の笑顔が見られないと不安になる。不安が重なれば自信を無くすもんだ。自信がなくなれば、好きでいる勇気がなくなる。勇気がなければ近づけなくなる。…それは、別れても一緒にいても変わらない。嫌いになるんじゃぁない。好きでいる勇気を失くすのさ。」
「…つまり、菜都芽さんの笑顔が見られれば、信司先生は、また彼女を好きになる勇気が湧いてくる、ってこと?」
「あ~まぁ、一般論だがな。」
「燎も?」
不意に大きな瞳で覗き込まれ、クモの巣に掛かったように動けなくなった。

俺はこの透き通った糸に何度も絡め取られ、その度に力任せに引きちぎって逃げ出してきた。何度も何度も引きちぎって。それでもこの可愛い蜘蛛はまた糸を繰り出し、遠慮がちに罠を仕掛けてくる。俺はこんなにも絡みついてくる糸にいつしか温もりを感じるようになり、今はもう、この透明な罠に掛かって楽になりたいと思っている。

けれど、そんな想いとは裏腹に気の利いた言葉は出てこない。
黙りこくった俺の横顔に妙に鋭い香の視線が刺さる。
「一般論だっつったろ。」
「そっか…。ま、あたしは、燎の前で怒ってばっかりだしね。」
「そんなことは…」
「関係ないか…」
バカ。関係あるに決まってるだろう。俺だって、本当は、ずっとおまえに笑っていて欲しい。ただ、いつも上手くいかなくて怒らせてばっかりかも知れんが…

「おまけに、パートナーとしても、やっぱり力不足だしね。」
「は?そんなこと言ってないだろう。」
「だって、もう辞めろ、って。」
「あぁ?」
「言ったじゃない!」
「言ってねぇ。」
「言った!」
「いつ言ったよ。」
「…花籠から、盗聴器が見つかった時。」
あっけに取られた。話が繋がらない。どこをどう取ったらパートナーを辞めろという話になるんだ? 大体、笑顔の話はどこ行った?

「あ、あれは、そういう意味じゃねぇよ。」
「じゃ、どういう意味よ。」
「盗聴器に気づかなかったのは、おまえのせいじゃないって言ったんだ。」
「じゃ、なんで辞めろって言ったの?」
「なんでも自分のせいにするのを止めろって言ったんだ!パートナー辞めろなんて言ってねぇだろう!」
お互い半ば言い掛かりの口調になった勢いで、向き合って角を突き合わせていたが、はっと我に返った香が慌てて身を返し、欄干にへばりつくようにして街明かりに顔を向けた。

「…香。」
「…ほっといて。」
手すりの上で組んだ腕に顎をのせ、香はまたぼんやりと夜景を眺めている。
バカ、そんなおまえをほっとけるほど、俺は優しくない。

「なに拗ねてんだよ。」
「拗ねてない! もう、ほっといてよ…あたし、失恋したんだから・・・。」

そう呟いて肩を窄める香を揶揄う勇気はなく、俺はただ足元の灰色コンクリートに目を落とした。
思えば香は、今までロクな恋愛をしていない。男優かと思えば女優だったり、結婚相手と目されたかと思えばまるっきり見当違いの思い込みだったり。
どれも始まりもなければ終わりもなかったハンパな恋。
けれど、今回は違ったのだろう。
きちんと恋をして、想って、叶わなくて、消えた。
分かってたさ。恋をしたおまえが本当に綺麗だって。まるで薄い光のショールを纏ったように輝いて、川底で転がりながら磨かれたカンラン石のような瞳をして、すごく可愛いかった。

そして同時に思い知らされた。
俺は今まで、こんなにも愛おしい色の瞳を拒み続けて来たのだと。


「春疾風-31」につづく

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

春疾風-29

二人が走り去った後、俺はガレージの明かりを消し、大きく息をついて腹の底に溜まっていたしこりを吐き出した。

あぁぁ。よそ見されるって、こんな気持ちなのか。
香は、毎日のようにナンパに勤しむ俺を見て、こんな気持ちでいるのか。
胸の辺りがザワザワして、こめかみを万力で挟まれてるみたいだ。胃はムカつくし、頭も痛い。

暗いガレージの中で目を見開き、ここ数日の香の顔をハイスピードで再生する。
確かに、香と火野の恋心は触れ合ったかもしれない。
でも、実際は何もなかった。火野は菜都芽を選んだし、香も火野を選んだ訳では、ない。
二人は通りすがりに恋をした。お互いに何を期待したでもない。すれ違い様のほん短い恋だ。
それだけだ。シャボン玉のように膨れて弾けただけの恋だ。
だが、そう自分に言い聞かせても不安は消えない。
すれ違いの恋ほど忘れられないものもあるし、一目ぼれに必要な時間は0.2秒だ。
口の端で笑ってみても眉が歪む。笑顔になんかなれない。

火野は確かに香の“好みのタイプ”ってやつだった。まぁ、俺だって好みのタイプが目の前に現れれば声のひとつも掛けたくなるから、気持ちは分からなくもない。あれこれして気を引きたくもなるだろう。まして、優しくされれば悪い気はしなかったろう。俺だってたまーにナンパに成功すれば、その日一日ハッピーだ。でもそれはほら、種族維持本能ってやつだ。綺麗で健康な異性を手に入れたいっていうDNAの陰謀であって、俺の心底の本心とはちょっと違う。いや、相当違う。
俺の想いは浅瀬の石ころみたいなそんな軽いものじゃなくて、もう、どんな激流にも動かない巨岩みたいに膨れてて…


階段を登る。その脚がだんだん速くなる。

今夜はもう、香とは顔を合わせずに寝てしまおうと思っていたけれど、ダメだ。
せめて、「おやすみ」の一言を交わそう。
「よくやったな」と言ってやろう。
きっと香は俺を見るだろう。少しは笑顔になるかもしれない。
火野を見つめた瞳のままで眠らせたくない。
そうだ香、おまえは俺を見つめて、それから眠れ。

歩幅を広げ、一段ずつ飛ばしながら階段を駆け上がる。
鼓動が跳ねて息が上がる。嘘だろ。上がり慣れたこんな階段で息が上がるなんて。
違う、心が逸って呼吸が追いつかないんだ。

香があの薔薇に見ていたのは火野ではなく、俺だった。
そんなことにも気づけなかったのは、子供みたいに嫉妬していたからだ。
俺は、香の笑顔を火野に取られて、火野に嫉妬して香に八つ当たりしていた。
いつも俺に向ける甘い瞳を、火野に向ける香が気に入らなかった。
どうして俺を見ない? どうして? どうして? どうして?
一体なぜこんな駄々っ子みたいな感情が渦巻くのか自分でも訳が分からない。

以前はもっと、もう少し、その…大人な対応が出来ていなかったか?俺?
いつかは表の世界に帰してやろう。それまではあいつを綺麗なままで守ってやろう。身も心も一筋の傷もつかないように。そうだ、俺は香の親代わりで、兄貴代わりで、決してあいつの男にはならない。この世のどこのどいつが香の男になるのか知らない。ただ、俺はあいつの男にはなれない。

ずっとそう考えてきた。

だが、海の中で飛び込んできた香を胸に抱いて、離してはならないと思った。
俺たちは、手を離したら諸共海の底へ沈む。
二人でなければ、俺たちはこの海を渡れない。

あの時俺は過去を海の底に沈め、香だけを掬い上げたのだ。

だから、法律とか形式とか面倒なことより先に、「一緒に生きていこう」と伝えようとしたんだ。決心したさ。俺なりに。
昏々と眠る香の手を握って、何度も語りかけた。
沈むな。おまえが沈んだら俺も沈む。俺を殺すな。俺もおまえを死なせないから。

それがどうだ…
肝心な所を忘れたなんてあり得ねぇだろ。
なぁ、香、海原戦を思い出しているんだろ?
なぜ何も言わない?
なぜ俺を詰らない?
キスまでしといて(ガラス越し)なによ!って責めろよ俺を。
責任取ってよね!って迫れよ、俺に。

外野は、なぜ俺から言わないのか五月蝿く言うが、たとえどんな言葉を選んでも、もう一度おまえを泣かせそうで怖いんだよ。俺は。
…それが、たとえ嬉し涙だとしても。

額に浮かんだ汗を拭って玄関の扉を開く。
白熱灯の明かりが香の部屋に続く廊下を白く照らし出す。

寝室の前に立って小さく息をつく。

「香…?」

だが、冷たいドアノブの向こうに香の気配はなかった。


「春疾風-30」につづく

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

春疾風-28

「気づいてくれましたね。」
指さされたハンカチを見て、今更ながらそれが新品だと気づく。

「…わざとか。」
忘れものを装った呼び出しとは、俺も古い手に引っ掛ったなと舌打ちする。

「どうしても、話がしたかったので。」
ふん、と鼻を鳴らして1階へ降りる。
ガレージを見回したが菜都芽の姿が見当たらない。

「菜都芽はどうした?」
「車で待ってもらってます。」
「…話ってなぁ、なんだ?」
「香さんはどうしてます?」
「香が、何か関係あるのか?」
「突っかからないで下さいよ。彼女には聞かれたくないだけです。」

いつの間にか“香ちゃん”が“香さん”になっている。
「…上にいるよ。」
俺がぞんざいにハンカチを渡すと、火野は丁寧にポケットへ入れた。

「香さんには、悪い事をしました…。」
俺は黙って壁に背を預けると、火野の懺悔に付き合うことにした。

「僕、初めて香さんに出会った時、彼女がこんな猥雑な街にいるのは、きっとなにか間違って迷い込んだと思ったんです。…冴羽さんも分かるでしょうけど、この街に迷い込んでしまった女性は、場合によっては二度と抜け出せなくなる。僕も、そんな女性を何人も見て、そして見過ごして来ました。僕にどうにかできるとは思えなかったし、正直、他人の面倒を見ている余裕なんかなかったから。でも、香さんはなんだか気になって…。」

ポケットを探ったが煙草はない。
仕方なくそのまま深く手を突っ込むと、火野が更に語りだした。

「…何度かフラワーアレンジメントを教えているうちに、彼女がシティーハンターのパートナーだと知りました。そんな裏仕事をしているなんて信じられませんでしたよ。それこそ何かの間違いか、騙されてるんじゃないか、ってね。でも彼女、仕事やあなたの話をする時、溜息を吐きながら笑うんですよね。それもやけに満足そうに。僕にはそれが不思議で溜まらなかった。そして、話を聞くうちに、会ったこともないあなたへの苛立ちが募りました。」

「…会ったら益々イラついたか?」
ふてくされて見えたのだろう。そっぽを向いたら苦笑された。

「香さんに、そんな危ない仕事辞めて、普通の生活を送りたいとは思わないの?と聞いたことがあるんです。そうしたら彼女、なんて言ったと思います?」
「さぁな。」
そんな分かり切った答えに興味はなかった。
香の“普通の生活”は俺が潰したようなものだ。こいつに恨み節のひとつぐらい言ってても、俺には何の不思議もない。

『今は、燎といるのが普通の生活だから…。』
火野が妙に高い声で、茶化すように香の口調を真似た。

「…もしも今回の事がなかったら、僕はあなたに挑戦しようとしたかもしれない。でも、あんな風に言われちゃぁ…敵わない。」
「…今回の事件が起きなきゃ、結果は違ってたか?」
「どうですかね。――でも、事件は起きました。いえ、僕に言わせれば、菜都芽の事だからいつかやらかすと思っていましたけどね。」

“やらかす。”という言葉に思わず二人で笑ってしまった。

「変な奴だな。厄介な女が好みなのか?」
「でも、可愛いでしょ?」
「けっ。再会した途端に惚気かよ。」
「冴羽さんも好きですよね? 厄介な女。」
俺は肩をすくめて笑った。

「あ、そうだ。あの薔薇…」
「薔薇?」
「市場で僕がプレゼントしたあれです。」
「あれが…どうかしたのか?」
あの薔薇のおかげで散々な気分になっていた俺は、尖った声で言った。

「香さん、あれを見て“一本だけで寂しそう”って言っでしょ?」
そう言えばそんな風に言っていた。
そして俺は、火野になにやら耳打ちされた香がやたら赤面していたのが、気になっていた。

「僕、あの時、“冴羽さんみたいだね?”って言ったんです。」
「あ?」
「一匹オオカミみたいな薔薇でしたからね。綺麗だけど近寄りがたいというか…だから、あのかすみ草は、香さん代わりです。」

(あの薔薇が、俺…?)
胸から熱いものがせり上がって来て、俺は目を瞬かせた。


「冷えて来た…もう、行きます。」
「あぁ。しっかり抱いてやれよ。」
「冴羽さんも。」

その言葉に、俺は沈黙を返した。

道路の向かいに停めた車に乗り込んだ火野に手を挙げて別れを伝えると、菜都芽が助手席から身を乗り出して笑顔を見せ、火野と揃って頭を下げた。

そして車は、すっかり暗くなった街に溶け込むように走り去った。


「春疾風-29」につづく

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

春疾風-27

音に驚いて火野が駈け込んで来たが、平静にハンマーを押し退ける俺を見て、呆れ顔になった。

「な、何やってるんです?」
「あ、あははは。お騒がせしちゃって、ごめんなさい。あ…菜都芽さんは…?」
「はい、おかげさまで気が付きました。まだ、ちょっとふらつくようですが…」

その言葉に応える様にやって来た足取りの覚束ない菜都芽を、火野がそっと支える。
二人がそろってソファーに腰を下ろすのを、香は穏やかな笑みで見守っていた。

「冴羽さん…ご迷惑おかけしました。」
「いや、危険な目に遭わせてすまなかった。それに、チューリップも盗まれてしまったし…。」
「いいんです。発表はもう諦めます。元々、研究の本筋とは関係ないものですし。でも…」
「でも、悪用されては困るんです。」
火野が彼女の言葉を繋ぐ。

「――チューリップの行方は、今、ミックが追ってる。」
「本当ですか?!」
「あぁ。行方が分かったら知らせよう。」
「とにかく、あれが原因で研究が止まる事だけは避けたいんです。もし被害者が出たら、取返しがつかない。」
火野がまるで自分の事のように熱を込めて言った。

「まぁ、情報が表に漏れるとは考えにくいが…。」
「本当ですか?それなら、研究をストップしなければならない事態は避けられますね?」

火野の言質を取る勢いに、さすがの俺も腰が引けた。
ミックから得ている情報も曖昧なものだ。大丈夫、保証するなんて断言できる訳がない。
僅かに眉を顰めた困り顔をしたら、脇にいた香が口を開いた。

「信司先生、菜都芽さん、今回の事は本当にすみません。でも、あたしたちは中途半端に仕事を終わらせたりはしません。信じて下さい。ただ、今ははっきりした答えが出せないんです。だから、少し時間を下さい。何か分かったら必ず報告しますから。」

「…分かりました。よろしくお願いします。」
静かに頭を下げた菜都芽を見て火野も無言で頭を下げ、俺は胸を撫で下ろした。

まったく、依頼人との交渉は香には敵わない。
金の算段やら日程の調整やらはもちろん、拗れかかった依頼人との関係を宥め収めるのは香の方が上手い。なんだかんだと俺の我儘が通るのは、香のフォローがあるからだと分かっている。感謝してる。どれくらい感謝してるかって、香の頬にキスしてやりたいくらい感謝してる。
ま、実際はその横顔を視線で撫でるしかできないんだが。


「菜都芽さん、もう少し休んで行きますか?」
「いえ、あの…。」
「香ちゃん。僕が送ってゆくよ。」
「ぁ…そうですね。自宅の方がゆっくり休めますよね。」

香は小さく肩をすくめた笑顔で立ち上がり、先立って玄関へ向かう。
その後ろからのそのそとついて行ったら、二人がお世話になりましたと頭を下げたから、俺は、また連絡すると事務的に別れを告げた。
玄関扉が閉まる寸前「ありがとう。ごめんね。」と呟いた火野に香が何か答えようとしたが、扉はそれを遮って静かに閉じた。

「香…」
「さぁて、片付けなきゃ。」

俺の呼びかけが聞こえなかったのか、聞こえないふりをしたのか。
香は俺に背を向けたまま、ぐっと腕を伸ばすと、自分の部屋へ行ってしまった。

伸ばしかけた俺の手は、香の肩には届かなかった。
(ほっといて…。)
そう言われた気がした。

俺が香の父親だったら、残念だったなと茶化してやるのだろうか。
俺が香の兄貴だったら、男は他にもいるさと励ましてやるのだろうか。
何も言えず、何も求められない。
またしても香の何者にもなれない自分にイラつきながらリビングへ戻る。

ソファーに身を沈め、煙草に手を出す。ここ数日で何本灰にしただろうか。
オイルが切れて来たのか、ジッポの火が小さく揺れる。

俺は、天井を眺めながら立ち上がる煙をぼんやり見つめた。

香が火野にのめり込んでいたとは思えない。ただ、自分好みだったんでときめいたんだろう。
恋愛偏差値マイナスな香のことだ。上っ面の輝きに目が眩んで足元がふらついただけだ。一瞬の光に惑わされて熱が上がったってだけだ。日常に戻れば、そんなものまやかしの光だったと気づくだろう。
…けれど、眩しい光が突然消えた時の闇は、いつもより暗くて、寒い。

でも、だからって、どうする?イイ男は目の前にいるじゃないかと励ますか?いやいやいや、そんな懐中電灯携えて香の足元を照らすような真似…あまりにワザとらしいし、柄じゃねぇ。第一、このタイミングでそんなことを言っても香は信じやしないだろう。
今夜は触れないでおこう。明日になれば、きっといつもの香に戻る。そうさ、先ずはいつもの俺たちに戻って、それで…後の事はそれから考えよう。

灰皿を探して視線を下げたら、サイドテーブルに飾られた薔薇が目に入った。
火野が香に贈った花だ。
薔薇が火野でかすみ草が香か…。まぁ、そうだろうな。自分を薔薇に例えるなんざ気恥ずかしくて俺にはとてもできないが、花屋ならばそんな贈り方にも慣れているんだろう。
だが、香がどう感じたかは別問題なわけで…。

花に罪はないとは言え、火野が菜都芽とよりを戻して去った今は、堂々と咲く様子が余計に目障りだった。いっそ黙って片付けてしまおうかと花瓶に手を伸ばし、ふと、見知らぬ男物のハンカチに気づいた。

(火野の物か?)
煙草をもみ消してベランダに出ると、道路脇にまだ火野の車が停まっていた。
駆け下りれば間に合いそうだ。
いや、ハンカチなんて急ぐ物じゃない。
駆け下りて追いかける程のことじゃない。

だが俺は奴を追いかけることにした。
香に悟られないように無音で玄関をすり抜け、階段を駆け下りる。

奴にひとこと言ってやりたかった。
再会するつもりがないなら、なぜ菜都芽を助ける様な事をした?
菜都芽との再会を期待しながら香に色目を使ったのは何故だ?
菜都芽に会えない寂しさを香で埋めようとしたのか?
香に何を期待した?
少しは香の気持ちも考えたのか?

そんな考えを巡らせて1階まであと10数段という所で、はたと足を止めた。
俺が口を挟むのは可笑しくないかと気づいたからだ。

香の気持ちを分かってないのは自分じゃないのか?
そもそも、火野に何を言ってどうしたいんだ?
思考回路がどうかしている。香が吹っ切ろうとしている気持ちを俺が蒸し返してどうする。


「冴羽さん!」
やはり止めようと足を戻したが、階下から火野に呼び止められた。


「春疾風-28」につづく

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

春疾風-26

「はーぃっ。」
俺の手からすり抜けた香が駆けてゆく。

蛇口を閉じると玄関からくぐもった男の声がして、見れば火野が突っ立っていた。
「ま、上がって下さい。」
「でも…。」
火野は菜都芽の靴を横目にして動こうとしない。
「上がれ。」
俺はここまで来ておいて躊躇う火野にイラついた。
硬い口調に気圧されたのか、奴は軽く頭を下げて靴を脱いだ。

「丁度よかった。コーヒー入れるところだったんですよ。リビングで待ってて下さいね。」
香が小首を傾げた作り笑いを見せて、キッチンへ消える。

俺は、突っ立っている火野に構わず、ソファーへ腰を下ろした。
煙草を摘まみ、ジッポーを手にしてふと気づく。そう言えば昨晩見つからなかったジッポーだ。…どこにあったのだろう。

「あの…」
「あ?」
一瞬、火野の事を忘れていた。

「あの、彼女は…?」
「安心しな。菜都芽ちゃんは香の部屋でぐっすりお休みだ。」
「僕、やっぱり…」
「会えない、か?」
目を伏せて小さくうな垂れる。

俺はカシュッと金属の擦れる音をさせ、ジッポーで煙草に火を点けた。
火野はソファーの脇に立ったまま動かず、視線を泳がせながら背中で必死に菜都芽の気配を探っている。

「帰るんなら、今のうちだぜ。」
俺は肺まで吸い込んだ煙をバラの花に吐きかけ、煙草を灰皿に押し付けた。
半ばヤケクソなのは俺の方かもしれない。

ほのかにコーヒーの香りが漂って来る。
このままでは、すぐに香がやって来てしまう。

「…あのな、俺らの嘘は、香にぜーんぶバレてっから。」
「え?」
「お前と菜都芽ちゃんの過去の関係もバレてっから。」
「冴羽さんが話したんですか?!」
「問い質されたんだよ。…しょーがねぇだろぉ、さすがに変だと気づかれたんだ。」

「…お節介だな、香ちゃんは。」
唇を尖らせた不満顔をしてはいるが、まるで迷惑そうに見えない。

「そういう奴なんだよ、香は。しょーがねぇお節介で…。だけどお前よりずっとお前ら2人のことを考えてる。」
「…香ちゃんの気持ちは嬉しいです。でも――。」

香の気持ち? 
香がどんな気持ちでお前を呼んだかなんて、俺は知らない。

「帰れよ…――香の気持ちをお前の言い訳にするな!」
底冷えのする声で睨むと、火野は静かに言葉を呑んだ。


「お待たせ! やだ、信司さんこんなところで突っ立って何やってるんですか。さ、コーヒー入りましたからどうぞ。」
やって来た香の明るい声が、うすら重い空気を押し退けた。

「香ちゃん、・・・ちょっと、彼女の様子見させてもらっていいかな?」
「え、えぇ。もちろん。奥のあたしの部屋です。ちょっと散らかってて…すいません。」
「いや、僕こそ申し訳ない。」

甘い笑顔を見せて香とすれ違い、火野はそっとリビングを出ていく。
香はコーヒーを手にしたまま、その背中を見送った。

「…冷めるぜ、コーヒー。」
「あ、ごめん。」

トレーの上には3つのコーヒー。
ひとつ、ふたつと並べ、残りのひとつはトレーに置いたままサイドテーブルへ。

香はソファーの端にちょこんと座り、置き去りにされたコーヒーから立ち上がる細い湯気を見つめていた。

菜都芽が気付くのは時間の問題だ。いや、ほんの少し触れればすぐにでも目覚めるだろう。

カップを手にした香の意識は、完全に奥の部屋に向いていた。
俺の手はマグカップには届いても、香の肩には届かない。
コーヒーがやけに苦くて、一口だけ飲んでテーブルへ戻した。

香はガラス繊維のような冷たい空気を身に纏い、鈍く反射する光で俺の目から心を隠す。
もしも乱暴に剥ぎ取れば、崩れるガラスで傷つけてしまいそうだ。
そう言えば、まゆ子ちゃんの時も、こんな空気を纏っていたっけ。
あの時俺は、ただ香に追い縋っただけで何も支えてはやれなかった。
香は独り泣き崩れ、そして独りで立ち直った。

今もまた、独りで心を冷そうと躍起になっている。
俺はまた、手を拱いてやり過ごすのか?

「苦いね…」
両手でカップを持って、ソファーに蹲る。
「砂糖でも入れろよ。」
入れたところで優しい味になる訳もない。俺は何を言っているんだ。
「そう…ね。」
香は苦笑いしてカップに口をつけた。


ふと、香の部屋の気配が、一瞬ひどく張り詰め、だがすぐにふわりと穏やかになった。
顔を上げると香も俺を見た。
「気がついたらしい…。」
「うん。なんか、分かる。」
大したもんだ。人の気配をここまで読めるようになるとは。


(ごめん。)(ごめんね。)

漏れ聞こえてきた火野と菜都芽の声。

リビングの戸口に目を向けた香の表情は見えなかった。だが、すぐに向き直ると、奥歯をきゅっと締めた笑顔を俺に見せた。

「へへ。作戦成功。」
「ふん、よけーな事を。」
「何がよ。」
「おまえのお陰で特別報酬がパーだ。」
「まさかあんた、性懲りもなく菜都芽さんにもっこりを…」
「ま、まてっっ…」

いつもの空気と共に姿を現したハンマーが轟音を響かせ俺に圧し掛かかり、それと一緒に香を包んでいたガラスの空気も砕け散った。
良かった。
俺はハンマーの下敷きになりながら密かに肩を緩め、息を吐いた。


春疾風-27につづく

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

春疾風-25

あの2人がここ何年も会っていないと分かって、香は何を思ったのだろう?
火野と菜都芽が別れていたら、香はどうするのだろう。
やっぱり、火野と付き合いたいのだろうか…
だか、それならなぜ火野を呼び出した?
2人が顔を合わせれば、きっと焼け木杭に火がつく。
いくら鈍い香でも、そんなことぐらい分かるだろう。

俺はテレビの脇にストックしてある煙草を取り出し、灰皿に置いてあったジッポーで火を点けた。
以前は火事になる寸前まで山になっていた吸い殻が、今は毎日片付けられている。
いや、そもそも灰皿なんていつからあった…?

見回してみれば、いつからあるのか分からないものが俺の回りに溢れている。

揃いの食器、パステルカラーの歯ブラシ、肌ざわりの良いタオル、太陽の匂いの布団…。
どれも、香が持ち込んだ小さなものだ。
煙草の吸殻は灰皿に捨てる事、使ったタオルは洗濯機に入れる事、コーヒーを飲み終えたマグカップはシンクに置いておくこと。
どれも、香が決めたケチなルールだ。

香が初めて来た時、ここはごみ溜めみたいだった。
あったのは“無法”というルールだけ。

それまでの俺にとって、守らなければならなかったのは戦場のルールだけだった。
銃火器の扱い、作戦のやり取り、戦場の確認。
ひとつ間違えれば命取りになるルールは、きっちりと守った。
自分が死にたくなかったからじゃない。仲間を、親父を失いたくはなかったからだ。

だがそれも、アメリカに流れ着いた頃にはどうでも良くなっていた。
失いたくないものがなかった。自分の命もどうでも良かった。
それなのに、染み付いた習慣で身体は勝手に戦場のルールを守り続け、いつの間にか、死神にすら嫌われたNo.1スイーパーなどと言われるようになった。

そんなかつての俺の相棒や女達の中には、口うるさくルールを唱えた者もいた。
飯は食え、ダウンタウンで酔いつぶれるな、やたらと敵を作るな…

だが、そんなものは、俺を支配するためとしか感じられなかった。
俺が何を食おうと、どこで眠ろうと、彼らの命とは無関係だと思った。
俺を殺してくれる誰かを待っていたから、敵なんか増え続けて構わなかった。

そうやって拒み続けていたら、彼らはいつの間にか俺の前から消えていった。


けれど、香は少し事情が違った。

『香をたのむ。』

槇村の“依頼”を受けて、俺は香を守ることになった。

始めは何だったろうか。
ゴミはゴミ箱へ、吸い殻は灰皿へ。そんなところか。
まるで子供のルールだ。守らなくても命には一切関わらない。

面倒だったが、まさか本当に“預かりもの”にパートナーをやらせる訳にも行かず、香の気晴らしになるならと思い、好きに家事をさせていた。

そして季節が変わるのを待つ間もなく、香は俺の生活をハイスピードで改造していった。

時間どおりに整えられる食事、酔った身体から剥ぎ取られて洗濯される服、埃の影も見当たらなくなった床。
どうでもいいと思っていたのに、澄んでゆく室内の空気に心地よさを感じ、明るくなる空間に温もりを感じ、暖かい部屋の中で眠る安らぎを覚えた。

そしていつしか、ただのコンクリートの空間が、俺の“家”になった。

崩れかけた灰を叩き落とした煙草を咥え、ソファーに寝転んだ。
目を閉じると、キッチンからシュンシュンと湯が沸く音が漏れ聞こえて来た。
すぐにコーヒーの香りが漂ってくるのだろう。

香がいなくなったら、この“家”はどうなるんだろう…

香がこの“家”からいなくなる。香を表の世界に返すということはそういうことだ。当然のことなのに、香がいない“家”の想像がつかない。香が消えたら、この“家”は蜃気楼のように消える。そんな気がしてならない。

瞼を押し上げて天井に向かって煙を吐き出すと、リビングの空気が曇った。

『香をたのむ。』

槇村の最後の言葉が頭の奥に霞んで響く。

海原の脅威は取り去った。これからの危険も俺が排除する。香の命は俺が守る。
心密かに固めた決意だ。だが…それは本当に槇村の願いだろうか。
香を表の世界に戻し、至極平凡な毎日を過ごさせていたなら、例え明日、香の命が尽きたとしても、槇村は俺を恨まないんじゃないだろうか。

しわくちゃのばばぁになるまで香を守っても、俺といる限り、平凡とは程遠い。
毎日神経が磨り減るこんな暮らしは、槇村が香に与えたかった日常ではないだろう。

香と想い合ったと感じたのは、きっと、ただの種族維持本能。
香をどうかしてしまいたいと思うのは、きっと、ただの劣情。

香を守る? 一番アブねぇのが自分だっていうのに?
俺は、報酬も期限もない槇村の依頼を言い訳にして、香を縛りつけているんじゃないだろうか…。

きりっと歯を食いしばったら頬に灰が落ちたもんだから、俺は慌てて灰皿でもみ消した。

キッチンからは、まだシュッシュと湯が沸く音が聞こえる。
コーヒーの香りがしてこない。
(……?)
違和感を覚えてキッチンを覗くと、香がシンクに向かってじっとしていた。

「…香?」
「あ、コーヒーね、ゴメン。もうちょっと待って。」

見ると、少し頬を歪めてシンクの水桶に手を浸していた。
手の甲にはうっすらと赤い線が走っている。

「何やってんだ!」
「へへ…ちょっと、火傷しちゃった。」

浸した手を挙げ、ひらひらと水滴を飛ばしておどけて見せる。

「バカ!んな冷し方じゃダメだ!」

思いのほか大声になって、香がビクリと肩を窄めたが構わなかった。
細い手首を強引に掴むと、捻った蛇口から勢いよく流れ出る水へと突っ込んだ。

「ちょ、大丈夫だから。離して。」
「動くな…痕になる。」

俺の手から逃れようと腕を引いた香をすかさず引き戻す。
ガス台の火は消し、煩く湯気を噴き出していたヤカンは黙らせた。
ザァザァと飛び散る水が俺と香の手を濡らしてゆく。

二人して流れる水を見つめても何も言えなくて、手の甲はジワジワ冷えてった。
脈を探るように無骨な指を動かすと香の手首がふぅっと熱を帯びた。
ヤカンの火を止めるんじゃなかった。指先から自分の鼓動が香に伝わってしまいそうだ。
指先が震えるのは、水が冷たくて痺れてきたからで、他の理由なんかない。
それとも、震えているのは香の手…?


“ピンポーン”

耳障りな水音を軽快な玄関チャイムが断ち切った。
指先を緩めると、香の冷えた手が滑るように俺から抜けていった。


春疾風-26につづく

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