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はじめに

初めまして。

こちらは、KAIBAが運営するCITY HUNTER(北条司 氏原作)の二次創作ブログです。

2012年秋頃、本屋でエンジェルハートを見掛けたところ、
AHがなんとCHの巻数(Jump Comic全35巻)を越えていた!!
学生時にCH連載をタイムリーに読み(…〇十年前です(汗))、
当時ハマりまくっていた私には、AHはずーっと受け入れがたかったのですが、
今はもう通巻40(1stシーズン+2ndシーズン)(2013年11月現在)。
ある種のショック(?)を覚え、ついAH大人買い、一気読み。
(AHついては、「考察」でそのうち…)

で、一気読み後にCH熱が再炎上。二次創作サイト読みまくり。
で、みなさまの二次創作に共感したり、感服したり…。
で、自分の妄想が暴走したのがコチラのブログです。

主に、原作では描かれていない“隙間”の勝手な解釈と、
最終回~数年後のRyo&Kaoriを想像した内容ですが、
思いっ切り管理人KAIBA解釈のR&Kです。
なので、北条先生原作の世界観を崩したくない方は、早々にお帰り下さい 。
ここでお帰りにならず、内容に不快を感じた場合の責任は負えませんのであしからず。


★ 本ブログは個人的な趣味の範囲で開設したブログであり、
  原作者、各出版社、テレビ局等各関係者様とは一切関係ございません。
  また、全ての作品はフィクションであり、
  実在の個人・団体・事件等とも一切関係ありません。

★ 管理人はブログ&二次創作の知識がアヤシイので、色々不手際があると思います。
  予めお詫びいたしますm(_ _)m
  心優しい方々のアドバイスお待ちしています。

★ 拍手・感想・ご意見大喜び。リクエスト(あるかいな…)随時募集。荒らし御免。

★ CITY HUNTERファンに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
  ご連絡頂けたら更に嬉しいです。
   リンク用URL:http://kiaab.blog.fc2.com/blog-entry-1.html
   ブログ名:Buliitt…その破片

★ 本ブログ内で発表した作品の使用、転載、引用及び各記事の直リンクは許可制です。
  使用などをご希望の場合は、コメントへ非公開でご連絡下さい。 
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★ 本ブログ運営に際してのガイドライン
① 本ブログは、原作者北条先生及び関連の著作権所有者から
直にツッコミが入ったら、即時撤収します。
② 内容につき、関係官庁から法的ツッコミが入ったら即時撤収します。
③ 管理人は、原作のコピートレース、コラージュはしません。
(「戯言 そもそも論」のみ例外)
   模写については、原作の引用部分を明記します。
④ ご訪問者からのツッコミは拝聴しますが、ブログ撤収はしません。

 
★ 基本設定:
(長編)原作エピソード+原作終了数年後
(短編)原作設定+〇年後?(ご想像におまかせ)

★ 登場人物:原作キャラ+オリジナルキャラ
★ 冴羽リョウ:冴羽燎と表記します。
★ 原作引用:引用箇所についての注記は、『CITY HUNTER COMPLETE EDITION』
 (徳間書店)の巻数とエピソード番号を示します。解説では、『CH C/E』と略します。
★ 更  新: 1~10日に一度が目標です f(^_^;

★ こんな2人もありよね!!
 と、おおらかに受け入れて下さる方、どうぞコチラのアナザーCHワールドへ!!

since 2013/ 3/26

目次

目次
★CITY HUNTER 二次小説(長編)

※発表順です。( )内は、お話の設定年月です。

「花信風」全18話(1992.3)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18

「青嵐」全21話 (1992.6)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21

「つむじ風」全30話(1993.9)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30

「つむじ風の足跡」全5話(1993.10 「つむじ風」のおまけ話)
1、2、3、4、5

「透間風」全37話(1991.11)
pro、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、epilogue

「春疾風」 全32話(1991.9)
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、epilogue

「初嵐」全5話(1991.11) 
1、2、3、4、5

「風穴」 連載中(1994.6) 
プロローグ13、4、5、6、7、8、

★CITY HUNTER 二次小説(短編/時間シリーズ)
※ 発表順ではありません。お好きな時間をお楽しみください。
00:2001:1001:4502:2005:2509:5511:4512:5513:3014:4015:1015:5016:1517:1019:1019:5020:15【A面】20:15【B面】22:2022:50【A面】22:50【B面】

★CITY HUNTER 二次小説(短編/Newsシリーズ)
※発表順です。

三保の松原24億円?イリノイの遺品懲り五輪?中秋の月光に60年の家族(前)、(後)それでも、だから、これからを憲法記念日ブリタニ―29

★CHの考察
※発表順です

Report#1. メディアミックスReport#2. 城市猎人 (中国版「シティーハンター」)/Report#3. 冴子&海坊主
Report#4. 神回の音効report#5 冴羽リョウのもっこりについての浅はかな分析report#6 「愛宿」が凄かった件

★賜物
小谷野さま」/「ヨフカシさま、えびすなさま」/「あさのみさま

★イベント
「City Hunterへの依頼大募集」(御礼)/「調査報告書/PROJECT O-31」/Trick-or-treat!

風穴-11

井上と未央を乗せたミニでアパートを出る。向かいのビルから金髪堕天使が鋭い視線で見下ろしていたのだが、燎はそ知らぬふりをして信金へ車を走らせた。

二人を送ると、井上の仕事が終わるまで待機となった。一旦帰宅するのかと香が聞くと、燎が念のため様子を見張ると言って、信金の脇にミニを停車させた。

BGM代わりにつけていたラジオを「うっとおしいな。」と燎がOFFにすると、やけに車内が静まり返った。香がその機会を待っていたかのように口を開く。

「ねぇ燎、井上さんはどうして兄貴を知っているの?昔の依頼って何?」
燎は以前より過去の事を隠さないけれど、嫌な記憶もあるだろうと思い、香は根掘り葉掘り聞き出しはしない。だが今回は槇村の話が飛び出してきたから、質問は矢継ぎ早になった。

燎はハンドルに腕をもたせ掛け、信金の出入口に目を向けながら口を開いた。
「シティーハンターを始めた頃、新宿でソープ嬢が暴力団の抗争に巻き込まれて、流れ弾で死んだ事件があってな。俺は一人で仕事をしていて、槇村は…警視庁の刑事になって数年目だった。」
記憶をたどりながら語る燎に、香はじっと耳を傾けた。
「井上は、殺されたソープ嬢の、ユメって名前だったかな。その彼氏でな。彼女を殺した北竜組に復讐をしたいから、俺に手を貸して欲しいと依頼して来たんだ。」
「うん。」
「で、復讐を果たせたら自分も殺して欲しい、と。」
「え?」
「だが、いざ復讐決行となった時、北竜組の事務所に飛び込もうとした井上を、槇村が止めたんだ。」
「それで?」
「復讐は失敗した。井上は槇村が連れていっちまったから、俺はその場から退散した。その後、あいつとは会っていない。」
「そうなんだ。」
「あぁ。だから俺は、あいつの依頼を果たしてない、ってことになる。」
燎は、手榴弾のことは話さなかった。なぜそうしたのか説明が出来ないからだ。

「燎は、その件で兄貴と知り合ったの?」
「その時はすれ違っただけだ。数年後にあいつとパートナーを組むことになるなんて、想像もしなかった。」
「…今朝の、あのビルの隙間で出会ったの?」
「そうだ。」
「そっか。」
燎があの場所を酔い覚ましに使っている理由が分かった気がした。
普段は兄貴のことを口にしない燎が、そんな風に兄との想い出に浸っているのかと思うと、香はなんだか嬉しかった。

「でも、何故あそこだったの?」
「あのビルの隙間を抜けると、北竜組の事務所があるだろ?」
「うん。」
「彼女はその事務所の前で殺されたんだ。井上は彼女と同じ場所で死にたがってた。」
「そんな…。」
「だが俺は、井上を殺せなかった。」
「兄貴が、邪魔したから?」
燎はふっと視線を向けて、香の顔を眺めた。
「さぁ…自分でもよく分からん。殺れなくはなかったんだが…。なぜかな。計画を狂わされて焦ったか、やる気が失せたか。」
燎は首を傾げて少し唇を尖らせる。まるで叱られて拗ねた子供のようだ。
「でも、燎は井上さんを殺さなかった。だから燎と兄貴はパートナーになれたのよね。」
「まぁ、な。」
「井上さんも、生きてた。」
「あぁ。」
「間違ってない。燎の判断は間違ってないわ。」
「そうか…。」

傾きだした太陽に染められたオレンジ色の空気が、ミニの車内に満ちてゆく。香の笑顔が、燎の過去をまたひとつ慰める。

「井上を殺していたら、俺達は出逢えなかったか。」
「そ、そうよ。そのとおりだわ。」

夕陽に光る香の髪を撫でると、香がそっと燎の肩に頬をゆだねた。

「…どうするの?」
「ん?」
「井上さんの依頼。」
「ボディガードとユメの復讐…自分を殺してくれ、か。」
「そういうことよね?」
「少し様子を見て考えよう。」
「うん。」

燎は、いつからか死が怖くなった。
一体いつからなのか振り返ってみる。少なくとも、井上に会った時は『死』に希望を抱いていた。だからこそ井上の依頼を受けたのだ。

死神は時に寂しがり屋だ。一人では飽き足らず、いくつもの命を奪うのを好む。
あの時、井上が組への階段に足を掛けたその時は、確かにそこに死神がいた。あの場で手榴弾が爆発していれば、何人も殺傷でき、死神の喜ぶ宴になっていたはずだ。だが、槇村が井上を止めた直後、死神の気配は煙のように消えてしまった。死神が燎を嫌ったからか、槇村についていた天使を畏れたからか分からないが、事が終わった時には死神の気配は跡形もなく消えていた。
その後も、死神に憑かれそうになったことは幾度もある。だが、槇村と出会った頃から、燎の死への渇望は少しずつ薄れていった気がする。

香と出逢ってからは、尚更だ。
そして今は、死が怖い。
自分の死が怖いのではない。
怖いのは、香の、自分を取り巻く者達の、死だ。
だから今は、井上の気持ちが分かる。
ユメを失って死を願った井上の気持ちが。

夕焼けが音もなく通り過ぎて行く。燎は茜色の温もりが奪われないように強く香を抱き寄せた。けれど、車内には夜の影が忍び寄って来ていた。

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

風穴-10

帰宅すると、燎は黙って寝室へ籠ってしまった。珍しく精神が不安定な様子は気になったが、同じ家の中にいるなら心配はない。そう思ったら香も睡魔に襲われ、いつの間にか眠りに落ちた。



責め立てる様に鳴る電話の音で目が覚めた香は、慌てて受話器を取った。



「さ、冴羽商事でございます。」

「おはようございます。」

香の起き抜けのどもり声に、爽やかに答えたのは未央だった。時計は十時を回っている。

「あ、未央さん、おはようございます。」

「昨日はありがとうございました。それで今朝、早速、井上代理と話しました。」

「あぁ、はい。」

「最初は、やはり必要ないと断られたのですが、ボディガードをお願いするのはシティーハンターですと伝えたら、同意してくれたんです。」

「え、そうなんですか?」

「はい。ですから、今日の午後一時に伺いたいのですが。」

「今日の一時、ですか?」

「はい。」

依頼が来るにしても、もう少し時間が掛かるだろうと予想していた香は少々面喰った、だが、未央がとにかく伺いますと言うから、お待ちしていますとしか言えなかった。



「燎!起きて。」

「……。」

「燎っ!」

「むぅ…。」

「起きて!仕事よ。井上さんがガードに同意したんですって。」

燎はまだ鬱々とした気分が抜けずにいたが、香の言葉で飛び起きた。

「同意した? 嘘だろ?」

「本当よ。シティーハンターがガードすると言ったら、同意してくれたんですって。一時にいらっしゃるから、シャワー浴びてシャキッとしてね!」

香は燎が脱ぎ散らかした服を拾って「洗濯もしなきゃ」とぼやきながら、早足で階段を下りて行く。



(シティーハンターと聞いて同意した、だと?)

ユメの事件の後、井上とは二度と再び会っていない。

井上の件は、燎にとって確かに忘れ難い依頼だったが、それは槇村と出逢ったきっかけであるからで、正直、井上のことを振り返る事はなかった。半端な仕事をして悪かったという気持ちはあったが、依頼料も返したし、惚れた女の復讐をして自分も死にたいなんて感情は、大概が一時の感情だ。それが証拠に、井上が再び依頼して来ることもなかった。おまけに今は信金の支店長代理だなんて、人生明るく前向きに過ごして来たからこそだろう。だから、今更シティーハンターの名など聞いたら、係わりを避けて絶対に断ってくるはず。燎はそう思って、未央に井上の了承を取るよう要求したのだ。



井上の写真を見て動揺したのは、槇村と出逢った時の自分を思い出して不安になったからだ。

死神はきっと今も燎の鼻先にいて笑っているに違いない。奴は、ほんの僅かな心の隙間を狙い、悲しみの頂点を狙って憑りついてくる。且つて燎にとって『希望』だった死は、今や『絶望』だ。今は死神を求めることはないし、憑りつかれるのも一切御免だ。ましてや、過去から甦った死神になぞ、係わり合いたくなかった。

(まさか…井上はまだ復讐を諦めていないのか?いや、それなら、失敗した俺に再度依頼するか?)

燎には、井上の意図が分からなかった。



※ ※ ※



“ピンポーン”

二人はいかにも金融マンらしく、一時きっかりに冴羽商事のベルを押した。

「はーい。」

香がエプロンを外しながら玄関を開けると、未央と井上が並んで立っていた。

「ぁ…。」

「この度はお世話になります。私、井上と申します。」

井上は丁寧に名乗り、深々と挨拶した。

「…どうぞ。」

香は、一瞬息を飲んだ。井上が誰に似ているのか思い出したからだ。



井上は、槇村に似ていた。



顔が似ているのではない。写真では分からなかったが、気配というか、雰囲気が似ているのだ。

香は背中に井上の気配を感じながらリビングへの廊下を進む。

何の会話もないけれど、柔らかな布に包まれるような気分になる。槇村もそうだった。物静かに、しっかりと傍にいて、雨も風もやんわりと香から遠ざけ、包む様に守ってくれた。

屈強な鉄壁のように危険を跳ね除けて守ってくれる燎とは、全く違う安心感だ。



二人をリビングへ案内してコーヒーを供したところで、燎が部屋から降りて来た。

「燎、お二人がいらしたわ。こちらが井上さん。」

香がサイドテーブルの脇に立って井上を示すと、未央は立ちあがって挨拶をしたが、当の井上は、腰を上げようともしなかった。



「やはり貴方でしたか。シティーハンターと聞いて、もしやと思いましたが。」

井上がソファーに座ったまま燎を見上げると、二人は静かに目を合わせた。

香は何事か聞きたい気持ちを抑え、様子を見守る。

「井上代理、お知り合いなのですか?」

事情を知らされていないらしい未央も、戸惑いを見せた。

「だいぶ前に、仕事を頼んだことがあるんだ。」

「そうなんですか? でしたら教えて下されば良かったのに。」

「ま、座ってよ未央ちゃん。」

所在無げに立ちつくしていた未央にソファーを勧めて腰を下ろした燎を見て、香はその隣に座る。



「そういえば名乗ってなかったか。冴羽燎だ。」

「井上佳樹です。」

続く言葉がないのか、燎は煙草に火を点け、井上はコーヒーに手を伸ばした。

「あの…ボディガードの件ですよね?」

香がそろそろと口を開くと、未央がハッとした。

「え、えぇそうです。彼らは午前中も店に来ました。代理が不在だったので、事なきを得ましたが…。」

「多野君は少々大げさに考えているようですが、HR興業は合法の会社ですよ。」

「HR興業だぁ?あそこは…」

「なんです?合法の会社ですよ。」

なにか言いかけた燎を、井上が畳みかけた。

「…HR興業と何を揉めているんだ?」

「融資の件で少々誤解をされているのです。」

「誤解?」

「えぇ。」

「一体、どんな誤解なんだ?」

「融資の件は、社外は勿論、社内でも厳しく秘密保持が義務化されています。」

井上がチラリと未央を見る。

「つまり、詳細は明かせないってことか?」

「ええ。多野君も本件について詳細は知りませんし、知る立場にありません。」

「ふぅん。まぁいいや。じゃ、俺達はどうあんたをガードすればいい?」

「出退勤と外出時だけで結構ですよ。信金内で仕事をしている時と在宅時のガードは不要です。」

「いつどこが危険なのか、分かっている訳か。」

「金融の仕事は逆恨みを買う事も多いですからね。こんな事は初めてではないのです。彼女はこういった経験がなく、驚いてガードをお願いしたようですが…。」

「でも、何かあってからでは遅いです。代理の安全を確保するのが、秘書の私の仕事ですから!」

「分かってる。ガードの手配は感謝してるよ。」

井上の口調は未央を突き放すようでいて、どこか庇っている様子もあった。



「ところで冴羽さん、今回ガードをお願いするについては、条件があります。」

「条件?」

「以前私がお願いした仕事を完遂して頂きたい。」

「それは…」

口ごもる燎を見て、未央が聞く。

「代理、何のことです?」

「気にしなくていい。君には関係ないことだ。」

「もし、俺が断ったら?」

「このまま帰りますよ。いずれにせよ、私にとって結果は同じですから。」

未央は更に条件を出した井上に困惑しつつ、燎に懇願の目を向けた。

「あ、あの冴羽さん、ダメですか?」

「…分かったよ。」

依頼人の前ではポーカーフェイスの燎が、苛立ちを覗かせる。

「燎、以前の依頼って?」

「…後でな。」

ぶっきらぼうにあしらわれて、香は黙るしかない。

「ところで、槇村…香さん?」

「は、はい。」

「警視庁の槇村秀幸という刑事をご存じですか?」

「え?兄貴を知ってるんですか?」

「兄貴?香さんは槇村さんの妹さんですか?」

「え、えぇ。」

「これはますます奇遇だ。同姓だからまさかと思って伺ったのですが。」

「あの、兄とは一体?」

「槇村さんにこんな美人の妹さんがいたとは。お兄さんは、お元気ですか?」

井上は、香の問いに答えない。

「兄貴は…他界しました。」

「…死んだ? いや、知らないこととは言え大変失礼しました。そうですか、亡くなった…。」

「えぇ。」

「…私は、生きているのに。」

「もう、5年以上前だ。そんな話はいいだろう。」

井上の呟きに燎は煙草を吐き、話を断った。



井上は本当に香が槇村の妹だとは知らないようだが、燎は井上と兄の関係を知っているように思えた。香は燎の機嫌が悪いのもそこに原因があると感じたが、問い質せる雰囲気ではなかった。



「あの、代理…お時間が。」

先程から時計を気にしていた未央が小声で言う。

「あぁ、もうそんな時間か。冴羽さん、ガードですが、今日から一週間でお願いします。そして、最終日に以前の依頼を完遂して下さい。」

「………わかった。」

燎は井上から視線を外して答えた。

「それから、依頼料は多野君ではなく私が払います。支払は、全ての依頼が完遂されたらです。」

「過去と今回の依頼の何れかを失敗したら、報酬なし、ってわけか。」

「そうなりますね。その代わり以前の依頼分は十倍額にしましょう。如何です?」

「…いいだろう。」

井上の指示は明確かつ端的で、交渉も素早く、優秀さが垣間見えた。



「さて、そろそろ戻らなければ。早速ですが、信金までガードをお願いします。」

井上がすっと腰を上げると、未央がそれに続いた。

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

風穴-9

「燎ちゃん、そろそろ閉店だよ。」

キャバクラで赤まむし赤玉ハイボール飲みながら大騒ぎをしていたが、深夜二時きっかりに店を閉める店長に、あっさり追い出しを喰らった。
 
「え~燎ちゃんまだ遊びたい。」
「ダメ、閉店。何だって帰ろうとしないのよ。」
「そういう店長はどうなのさぁ。直ぐに帰るのかよぉ。」
「…この後、女の子送って、売上計算して、店の掃除するんだけど、手伝ってくれるの?」
「…帰る。」
「そうそう、大人しく香ちゃんのとこに帰りな。あぁ雨降ってるよ。傘いる?」
「いや、いいよ。」
「なんだか寂しい雨だね。こんな夜は、誰かが死ぬんだ。」
「…安心しな。店長は死ぬタマじゃねぇよ。」

燎は店の看板を消す店長に小突かれて店を出た。
雨はやけにゆっくりと降り、静かに燎の髪を濡らす。
新宿は雨の夜中でも往来が減らない。10分も歩けばアパートに着くというのに、燎はそのビルの隙間へ身体を捻じ込んで、へたばった。
ポケットを探ったが、煙草は湿気て役に立たない。
黒ずんだビルの外壁に靠れ掛かかる。ビルに挟まれた細長い路地の先の景色に目を凝らせば、ピンクや黄色の派手なネオンの中に、鈍く光る北竜組の看板が見えた。

あの時、なぜ井上を殺さなかったのか、燎は今でも分からない。
飛び込んできた槇村など気にせずに、手榴弾を爆発させていれば、井上は望みどおり死なせてやれたのに。だが、槇村を死なすまいとした何かが燎を邪魔した。井上は死に見放され、燎が殺さなくとも槇村は殺されてしまった。
死神を追い求めるあまり、燎は自分が死神と化したのだと思う。あの時、燎と出くわさなければ、槇村は今でも生きていて、香との幸せな日々を手に入れていていたに違いない。燎の手に香を委ねる事もなく、心と身体の全てで香を守っていたに違いないのだ。
顔を上げれば、まるでクレバスの底から見上げるような細い夜空だった。こんなに狭い空なのに、降る雨は確実に身体を濡らし、歪んだ過去が燎の心を凍らせる。

「なぁ、槇村…死神を殺せるのは、誰なんだろうな?」

自分は今も死神なのだろうか。次に誰を死なせてしまうのだろうか。そう考えると吐き気がする。
燎は濡れたアスファルトに身体を沈め、目を閉じた。

※ ※ ※

不意に髪を触れられた気がして香は飛び起きた。きょろきょろと見回したが、燎の気配はない。どうやら髪に触れたのは、閉め忘れたベランダ窓から吹き込んだ隙間風のようだった。
いつの間にかうたた寝をしたらしい。
時計は午前4時に近い。香は蛍光灯で白く煌々と照らされたリビングで、冷えた溜息を吐いく。溜息は無駄に使った電気代の心配ではなく、目覚めても独りだったからだ。以前なら、こんな風に燎の帰宅を待つことはなかったし、唇が乾くのが寂しいなんて知らなかった。そんな香の気持など構わず、燎は楽しく飲み回っているのだろうと思うと、寂しさはより募る。
窓を閉めようと立ち上がり、桟に指をかけて肌に当たる霧雨に気づく。夕方の天気予報が夜半から雨だと告げていたとおりだ。ベランダから身を乗り出して夜空に目を凝らせば、黒煙のような雲が見えた。
出掛けに香が差し出した傘を、燎は受け取らなかった。雨宿りしながらどこかの店で飲み騒いでいるかもしれないが、どこももう閉店時間だ。もしかすると、いつもの場所で酔い潰れているかもしれない。

(あいつ、傘持ってないよね…)
香は、愛しい男を迎えに出るのに、まだ理由を探す。
すれ違い続けていた二人の心は、最近やっと近づいた。奥多摩で告げられた言葉も、交わした身体も嬉しくて仕方がない。けれど、慌てて近づき過ぎれば、今度は絡まってしまいそうで、それも怖かった。
あんなにも近づきたかった燎が今は近すぎて、香は少し戸惑っているのだ。

夜の雨は冷たい。
(風邪でもひかれたら面倒だし…。)
香は躊躇いを呑み込んで傘を掴むと、まだ夜の匂いが残るネオン街へ駆け出した。


「燎っ!またここでへたばって。全くもう、家にたどり着けないなんて、あんたも老けたものね。」
香の予想どおり、燎はアパートから遠くないその場所で、濡れるのも構わず寝転がっていた。
「うるへ~。ほーゆうおまえだって、おばはんじぇねぁか。」
「悪態吐くなら口が回る時にしなさいよね。」

香が燎を探すコースは概ね決まっている。燎が酔いつぶれる場所が決まっているからだ。
燎とてバカではないから、酔い潰れても身を守れるように場所の選択は慎重だ。そして、それらの場所と選んだ理由を知るのは香だけだ。
けれど、ここだけは、なぜ選んだのか聞かされていない。以前燎に聞いたら、はぐらかされた。
だが、今はそんなことはどうでもいい。いくら丈夫な男でも濡れた身体でいつまでも寝転がっていては風邪もひくし、泥や油で汚れた服は洗濯も面倒だ。
「燎っ、帰るわよ。」
「むぅ…。」
ビルの隙間は狭くて、傘を差し掛けようにも半分も開けない。仕方なく傘は諦めて燎の腕を掴んで引き上げる。だが、自分より優にひと回り大きな身体が動くわけがなかった。
「どうしたの燎?昨夜から変よ。」
未央の依頼を聞いてから燎は変だ。正確には、井上の写真を見た後から変だ。
「ほらぁ、立って。」
しゃがみ込んで濡れた黒い前髪を覗き込んだら、瞼を上げた燎と目が合って、香はそっと眼を逸らした。
「どうした?」
「べ、別に。」
燎の瞳から涙が零れそうに見えたから、なんて言えなかった。視線を避けたまま立ち上がろうと腰を上げたら、すっと伸びてきた燎の手に腕を掴まれた。
「な、なに?」
「ここな、槇村と出会った場所なんだ。」
「え?」
燎は遠い目をして香を抱き寄せた。雨で濡れた大きな手が背中に冷たくて、香は握っていた傘を取り落としてしまった。
「ちょっ、燎ぉ、冷たい。離して。」
「嫌だ。」
燎は濡れそぼった手で香のスカートを捲り上げる。冷たかった手が太ももの熱を奪って見る間に熱を帯びてゆく。香が「やめて」と抵抗しても無駄だ。燎は余計に香を引き寄せて一杯に広げた手で乱暴に尻を掴み上げ、手首を股座に潜らせると、優しくない指でショーツの上から香の蕾を引っ掻いた。

「いやっ!」
派手に平手打ちを喰らった燎の頬から、雨粒が飛び散る。
叩かれた頬を押さえ、燎はまるで空気が抜けた風船のようにくったりと腕を落として香を手放した。
「…どうしたの、燎?」
こんな自棄な燎の手は初めてだった。香の身体を這い回った手はまるで、むやみやたらに雑草を薙ぎ払うように乱暴だった。けれども香は、傷ついたのは燎のように思えた。
香が抗わずにいたら、もっと手荒にしていただろうと思う。燎は自分が怖くて、雨の滴る黒い癖毛を両手で搔き上げ、頭を抱えて黙り込んだ。

「ね、帰ろ?」
香は服を整え、そっと燎の肩に触れる。
「…悪かった。」
「ん。大丈夫。」
ビルの隙間を這い出た香がパッと開いた傘に、パラパラと音を立てて雨が落ちてくる。
散々濡れた身体だ。もう傘に意味はないと分かっている。それでも香は、燎に傘を差し掛けた。

「サンキュー、香。」

燎は立ち上がって汚れた手をジーンズで拭い、遠慮がちに香の肩を抱いてひとつ傘に入る。
二人は雨を避けながら、静かに家へと歩き出した。

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

風穴-8

「晴れたな。」
警察署の玄関口で澄んだ青空を見上げる井上に、槇村が声をかけた。
「…お手数をお掛けしました。」
なぜこの刑事が自分を助けたのか分からないが、余計なことをしてくれたと井上は思った。必死に投げた筈の手榴弾は奇妙なところで爆発し、誰一人傷つかなかった。一晩中事情聴取は受けたが、刑事達の興味は北竜組の連中に向いていて、井上は紛れ込んだ珍客扱いだった。おまけに手榴弾そのものが北竜組の物だったこともあって、結局、一晩で釈放された。
まるで、目覚めた途端に忘れた夢のようだ。

「銀行も辞めてしまったそうだが。」
「…私の事を、調べたんですね。」
「ユメに、君を守って欲しいと頼まれていたんでね。」
「ユメが?」
槇村は人差し指で眼鏡のブリッジをくいっと上げた。
「君は、『薔薇と蜜』に通い詰めていただろう?あの店は北竜組がバックにいてね。色々と揉め事のあるグレーな店だった。だから彼女は、毎日のように来る君の金の心配をしていたんだ。」
「金なんか…。」
「私は彼女に、君が店に来ないように諭して欲しいと頼まれていた。だが…」
槇村は、自分の行動の遅さが招いた不幸を説明できず、口ごもった。

「貴方に止められていたとしても、僕は彼女に会いに行っていましたよ。」
「君は、取調べで、彼女を傷つけたと言っていたね。」
「事実です。」
「…中学の時の事か?」
「なぜ、それを?」
「ユメから聞いた。」
「…そうですか。彼女、僕を恨んでいたでしょ?」
「いや。それはなかったと思うよ。」
「そんな筈は…。」
「私はどうやら、君と雰囲気が似ているらしくてね。会う度に君と比べられた。」
ユメの描いた様々なヨシ君を思い出して槇村が苦笑すると、井上は怪訝そうに眉を顰めた。
「あぁいや、彼女は、君が会社社長や大学教授になって優雅に暮らす様子を妄想してね。それを楽し気に私に語ってくれたんだ。きっと、君が幸せでいるのを望んでいたんだと思う。」
「…本物の僕に、さぞかし失望したでしょうね。」
「いや、大卒のエリート銀行員として現れた君は、彼女の妄想を上回っていたのかもしれない。」
「どういうことです?」
「住む世界が違うと、そう言っていたからね。」
「住む世界…でも、あの時、僕が身勝手な事をしなければ、彼女は違う人生を歩んでいた。僕こそ、彼女の道を歩むべきだった。」
「だが、君を妄想する彼女は本当に幸せそうだった。恨んではいなかったと思う。」
「彼女は分かってない。彼女の人生は、僕が狂わせたんだ。」
「…だとしても、彼女の人生を狂わせたのは君だけじゃない。彼女の両親も、北竜組の奴らも。そして私も、彼女を不幸に追いやった一人だ。」
「あなたが?なぜです?」
「私がもっと早く対応していれば、こんな不幸は起こらなかった。…すまない。」
「何を言っても、もう遅い。」
「あぁ。だから、君は死なせたくなかった。」
「僕が死んでも、刑事さんには関係ないでしょう。」
「そんな事はない。君を死なせたら、私は彼女に顔向けできない。」
「…要するに、馬鹿なことはするな、そう言いたいんですよね。分かりました。もう行きます。」
井上が話を断ち切って歩き出す。槇村は、引き留める言葉が見つからなかった。

「困ったことがあったら、いつでも連絡をくれ。」
「二度とお手数はお掛けしません。」
井上は踵を返し、人並みへと消えていった。

井上は、警察署を出た足ですぐにHRビルへ向かった。だが、辺りはまだ警察が警備をしており、全く近づけない。
「ねぇ、ちょっと。」
遠巻きに組事務所を見ていた井上の肩を叩いたのは、つばめだった。
「あぁ…つばめさん。」
「よかったわぁ会えて。はい、これ。」
つばめが、きっちり封のされた白封筒を手渡した。
「燎ちゃんが…あぁ、シティーハンターがね、あんたに渡してくれって。」
「何です?」
「さぁ。あたしは渡してくれって頼まれただけだから。」
「そう…。」
「あたしもさぁ、店を変えようと思ってたから、渡されて困っていたのよね。」
「店、変えるんですか?」
「ん?まぁ、こんな事があるとお客さん寄りつかないし。」
「…そうですよね。」
「なんか上手くいかなかったみたいだけど、あんたも諦めた方がいいよ。」
「……。」
「あたしも、もう助けてあげらんないし。」
つばめは、一度目の人情はあっても二度目はない女だった。
「ご面倒お掛けしました。」
「いいのよ。もしどっかで会えたらサービスしてあげるから。じゃぁね。」
つばめはひらひらと手を振りながら去っていった。

渡された白封筒の中身は、シティーハンターに渡した報酬の百万円だった。

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

風穴-7

「これを使え。」
「これは…手榴弾?」
「北竜組から盗んだ。そいつで奴らの事務所をふっ飛ばすんだ。」
自分も死にたいなら、自爆が一番手っ取り早い。そして相手も確実に殺傷できる。無論、首尾よく自爆できればの話だが。
「このピンを外すんですね?」
「そうだ。事務所に駆け込んだらピンを抜け。そのまま握りしめていれば、4秒後に半径10m四方の物がキレイに吹っ飛ぶ。事務所の中にいる奴は無事ではいられない。当然、お前もな。」
燎は新商品の説明でもするように淡々と語った。
「ピンを抜いて、握る。」
「そうだ。」
井上は手榴弾のピンを不安そうに指でなぞった。
「安心しな。やり損なったら俺が撃ち殺してやるよ。」
「…はい。」
燎を見上げた井上の瞳は、黒いビー玉の様に冷たく澄んでいた。
これが死神の愛する瞳の色なのだろうか。
同じ黒でも、ヘドロの様に濁る自分の眼とは全く違うな、と燎は思った。

井上は、ユメが殺されたきっかり一週間後のその時間に復讐をすると決めた。手榴弾を持って組事務所に駆け込み、爆発させる。北竜組と心中する作戦だ。

※ ※ ※

「ちっ。雨か。」
決行日は、細かい雨が降っていた。前日の天気予報では曇りだったが、殺されたユメの呪いだろうか。  
雨だからといって作戦を引き延ばすこともないが、燎は視界が悪くなるのが厄介だと思った。
事務所ビルの周囲には、事件後から毎日、刑事が張り込んでいた。井上は自分の事を知る刑事はいないと言っていたが、燎は、念のため宅配業者に扮するように指南した。それなら井上が事務所に向かって行っても、いきなり刑事に阻止されないだろうと思ったからだ。

「躊躇うなよ。」
「はい。」
燎は井上を送り出すと、自分は事務所の斜向かいのビルの隙間へ身を隠した。
雨の中、宅配業者に扮した井上が小さな段ボール箱を小脇に抱え、北竜組の事務所があるHRビルへ向かう。一瞬、井上に気づいた刑事達に、緊張と戸惑いが走ったが、燎の読みのとおり、様子見の判断をしたらしく、動く者はいなかった。

(いいぞ井上、そのまま進め。)
心の中で呼びかけたその直後、燎が潜んでいたビルの隣の物陰から、トレンチコートの男が踊り出た。男はビル階段を駆け登ると、井上を背後から羽交い絞めにした。
突然の事に井上が取り乱し、段ボールを落として叫び声をあげた。燎は、男の背中しか見えなかったが、パイソンに手を伸ばしてグリップを握り、焦らず事態を見守った。
珍客のせいで計画は崩れたが、手榴弾はまだ井上の手の中だからチャンスはある。燎はトリガーに指を掛け、外階段で揉み合う二人を目で追った。
男に何かを言われた井上が一瞬動きを止める。だが、騒ぎを聞きつけて二階から降りて来た組員を見て我に帰ると、手の中にあった手榴弾を突き上げ、ピンを抜いた。

「よせ!」
叫んだトレンチコートの男が、井上から素早く手榴弾を取り上げ夜空へ放り投げる。直後に井上の首根っこを掴むと地面へ引きずり倒し、躊躇いなくその上に覆いかぶさった。
「くそっ。」
燎は舌打ちし、降る雨の中に投げられた手榴弾目掛け、パイソンを撃った。

雨空高く響いた突然の爆発音と舞い落ちる鉄片に、街行く人々が悲鳴を上げた。
騒ぎに次々と飛び出してきた北竜組の組員を見て、張り込んでいた刑事が駆け出し、揉み合いになる。野太い怒号が飛び交う中、槇村に抱えられた井上が咽び泣く声が、小さく響いていた。

手榴弾は五階建てビルの上空で破裂したらしく、濡れた道路に破片が散乱したが、怪我人は一人もいなかった。

爆発の寸前に銃声を聞いた槇村は、ビルの隙間へ消えようとしていた赤いTシャツ姿の屈強な男の背中を見つけて駆け出した。
頭上で爆発するはずの手榴弾がビルの遥か上で爆発した。槇村にも訳が分からなかったが、槇村の刑事の勘が、目の前の男が何か神業をやってのけたのだと告げていた。

「シティーハンターか?」
男は足を止めたが、振り返らない。
「貴様、なぜ?!」
「…さあな。」
燎は振り返らずにビルの隙間を駆け抜け、雨に濡れる人混みへ紛れて消えた。

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

風穴-6

「辞めた?」
「えぇ。井上君は優秀で努力家なので、若手の中でも期待の人材だったのですが…。」

槇村がユメのいた施設へ問い合わせると、ヨシ君の消息は気抜けする程あっさり判明した。
ヨシ君こと井上佳樹は、中学三年生の時に叔父に引き取られて富山へ行っていた。井上家へ電話すると義母だという女性が出た。佳樹の事を聞かれた義母は、彼が優秀な成績で京慶大学を卒業してメガバンクのミズハ銀行に就職し、今は都内の社員寮で一人暮らしをしています。と、誇らしげに語った。
そこで早速、ミズハ銀行を訪問したのだが、井上はユメが殺された翌日に銀行を辞めていたのである。

「突然だったので、まだ社内手続きも済んでいないのですが、急いで実家に戻らなければならないとかで。」
「そうですか…ところで、彼の写真はありませんか?」
「写真ですか?えぇと、これでよろしければ。」
人事担当者が入社時のものだと言って差し出したのは、履歴書に貼られた小さな写真だった。着なれないスーツ姿はいかにも野暮ったいが、一生懸命結んだのかネクタイがまっすぐなのが好ましい。
その写真を見て、槇村はなぜユメが自分をヨシ君と見間違えたのか分かって苦笑した。気配というか、雰囲気が似ているのだ。

「数年前の写真ですが、雰囲気は変わっていません。地味な風体ですが、芯のぶれない男でしてね。ま、多少頑固ですが、苦労したせいか年齢より落ち着いていて、上司の覚えも良かった。まったく…」
数年かけて育てた人材に突如逃げられた人事担当者は、がっくりと肩を落としていた。
「彼は社員寮で暮らしていたと聞きましたが?」
「退職届を出した翌々日には出て行きました。まさかあんな早く出ていくとは…。あの、彼は何か、事件を…?」
「いえ、彼に聞きたいことがありまして。」
「そうですか。」
担当者が探りを入れてきたので、長居は無用と悟り、槇村は礼を言って銀行を出た。

署に戻ると係の全員が出払っていた。聞き込みでもしているのだろうが、四課と鉢合わせるなと言われては、出来る捜査は限られる。
槇村はデスクに座ると煙草に火を点け、分かったことを頭の中で整理した。

ユメが井上佳樹と再会したのは数週間前。ユメにとって幸せな再会かと思いきや、井上の態度はユメが想像していたものとは違ったらしく、戸惑ったユメは槇村に救いを求めて来た。だが、他の事件に追われていたこともあって、なおざりにしていた。きちんとユメの想いを汲み取り、もっと早く二人の仲を取り持ってやれば、こんな悲劇は起きず、むしろ幸せな結末になっていた筈だ。そう思うと歯痒かった。
井上がどんな想いでユメに会いに行っていたのかは分からない。だが何度も訪ねては謝るだけだったというから、何か後ろめたいことがあったのだろう。
そんな中で突然ユメが殺され、井上は銀行にも養父母にも嘘を吐いて姿を消した。きっと心を突き動かされたに違いない。そうでなければ、たった数日で全てを捨て去るように消えるなど考えられない。強い意志がなければ出来ないことだ。そうなると、復讐だけではなく、後追い自殺の線も考えられた。
ユメは救えなかった。せめて井上は救いたい。だが、一体どこを探せばよいか見当がつかなかった。
(一体、どこにいるんだ…?)

この社会は理不尽なことだらけだ。そんな理不尽を何とかしたいと粉骨する父親の背中に憧れて、自分も警察官になった。だが、警察官は世界を救うスーパーマンではない。自分一人が何とかできる範囲などたかが知れている。だから槇村は、せめて香が暮らすこの新宿の安全を保ちたいと思っている。
ユメに気をかけたのは、彼女が香と同じ様な境遇と年齢だったからだ。
そのユメが殺された。暴力団の抗争に巻き込まれ、流れ弾の犠牲になった。彼女は擦れた生活をしていたかもしれない。だが殺されるような事はしていない。あの日も、いつもと同じ路地を通り過ぎただけだ。きっと明日も繰り返される日々だと思っていた日常で、突然命を奪われたのだ。
あの路地は、香も時々は通る道だ。流れ弾に当たったのが香だったら…そんな想像をしただけで胆が冷える。

その時、デスクの電話が鳴った。
「槇村さんですか?」
「そうだが。」
「加藤です。」
「あぁ。」
ユメが働いていた『薔薇と蜜』の店長だった。
ユメと出会った時の騒ぎで目こぼしをしてやったら、色々と情報を流してくれるようになった男で、ユメよりよほど役立つSだった。
街中で電話を架けているのか、喧噪に紛れる加藤の声は少し聞き辛かった。

「どうした?」
「ユメ目当てに通い詰めていたヨシ、とかいう男ですが、復讐のために殺し屋を雇ったらしいです。」
「殺し屋?」
「シティーハンターとかいう。」
「シティーハンター…」
「最近売り出し中の奴です。私も名前しか知りません。」
「そうか。」
「ウチの店は北竜組にお世話になってますからねぇ。そりゃ可哀そうだと思いますよ。でも、復讐なんて騒ぎを起こされたら困るんです。」
「ヨシは、ユメが殺された後に店に来たか?」
「私は見ていませんが、つばめが会ったそうです。」
「そうか。」
「頼みます。ユメには悪いけど、私もとばっちりは受けたくないんで。」
「わかった。気に留めておく。」
「じゃ、頼みます。」
加藤はやれやれと息をつき、電話を切った。

『シティーハンター』は、最近耳にするようになった名だ。銃の腕前が正確無比と評判だが、男だという情報以外、容貌・年齢・国籍など一切が謎で、情報は無いに等しかった。
北竜組と銀誠会の抗争は続いている。そんな状態で殺し屋なんかがしゃしゃり出て来たら、事件は複雑化してしまう。早急に井上を探し出して止めなければならない。
しかし一人で、井上もシティーハンターも探し出すのは無理があった。

(やはり、北竜組を見張るしかないな…)
四課と鉢合わせするかもしれなかったが、槇村は北竜組を張り込むことにした。
署を出ると小雨が降っていたが、張り込みに傘は邪魔なので、濡れるに任せて歌舞伎町へ向かった。

北竜組の組事務所は、『HRビル』の二階にあった。どうやって手に入れたのか知らないが、HRビルは北竜組が所有する五階建てビルだ。歌舞伎町の繁華街の奥にあり、組が一帯に睨みを利かせるには最適な場所に位置していた。そして暴力団とはいえ所有者であるから、そこから追い出すことは難しく、警察にとって厄介なビルだった。
高井ら四課の連中がHRビルの周囲に陣取って北竜組の動きに目を光らせていたから、槇村は更に一歩離れたビルの陰に潜み、様子を窺うことにした。

ユメが殺されて一週間が経っていた。
小雨は降り続き、どこかの店から零れ出た油や酒が混ざった雨水がシャボン色の被膜となってアスファルトの路面を覆い、酔っぱらいの足元を絡み取っていた。
組事務所には煌々と灯りが点いているが、ビルを出入りする者はなく、不気味に静まり返っている。うっとおしい雨は、槇村のトレンチコートに染み込み、その肩をズシリと重くしていった。

風穴-5

「ね~リョウちゃんおねがぁい。」
「そりゃ、つばめちゃんの頼みなら聞くけど…敵討ちねぇ…」
「だって~ユメちゃんの彼氏かわいそうでしょ?」
「あ~うん…」

アメリカから新宿へ流れ着いて間もなかった頃、燎は趣味と実益を兼ねてあらゆる夜の店へ出入りしていた。その中でもソープランド『薔薇と蜜』のつばめちゃんは、キュートなショートヘアーと、ちょっと人情味のある性格が気に入ったから、もう一度お手合わせ願ってもいいなと思っていた嬢だ。だから話のひとつも聞いたのだが、暴力団に殺されたソープ嬢の敵討ちだなんて、B級ヤクザ映画もいいとこだ。おまけに報酬は百万円と格安だった。
だが燎も『シティーハンター』として仕事を始めたばかりだったから、名を上げるために実績は欲しかった。ユメというソープ嬢は会ったこともないし、敵討ちなんか、からっきし興味がなかったが、相手は暴力団だ。暴力団をやったとなれば名が売れる。そんな思惑もあって仕事を受けることにした。

依頼者であるユメの彼氏は、サラリーマンを絵にかいたような地味な男で、暴力団の前に立っただけで失神してしまいそうな、やせぎすの身体をしていた。
「井上といいます。今回はお手数かけます。」
「オテスウ…」
知らない日本語だったが、井上の恐縮ぶりからみて、気遣いの言葉なのだろうと理解する。
「ま、挨拶はいい。アンタ、彼女の敵討ちしたいんだって?」
「はい。」
「この間、流れ弾に当たった嬢?」
「…はい。」
「相手は北竜組で、おまけに流れ弾か。復讐ったって分が悪いぜ。」
「分かっています。でも、彼女は何も悪くない!僕は、彼女をつまらない抗争に巻き込んだ奴らが憎い。それに、彼女を傷つけた僕も…。だから…」
「だから?」
「奴らに復讐したら、僕も殺してほしい。それが僕の依頼です。」
「ふぅん…。」
彼女が死んだから自分も死にたいとは。女一人失ったぐらいで大げさだ。そんなことで死んでいたら、一体何度死なねばならないのか分からない。燎にはまるで理解できない気持ちだった。
だが、井上の瞳の色に、奇妙な妬みを覚えた。

「お願いします。」
燎を見つめる井上の瞳は、死神が好きそうな澄んだ闇色を湛えていた。死を選び、死に選ばれた色だ。
命を粗末にするなと言うけれど、粗末な命を抱えて生きる意味はどこにあるのか。生きることを持て余している者にとって、「死」は、これ以上ない甘美で至高の希望だ。
だが、生きる者全てに訪れる死もそうそう平等ではない。老衰、病死、自死、事故死。どこでどう死ぬかは死神が胸先三寸で決めることだ。
悪戯な死神は、「死」という希望で人を誘い、もがき苦しむ様を見て楽しむ。目の前で死を弄び、終に選んだ者にだけ、“希望の死”という『幸運』を授けるのだ。

海原に裏切られてからというもの、燎は自ら死神へ近づくためにあれこれ画策した。
だが強靭な肉体では自殺も事故死も儘ならず、半ばヤケクソに危険の多いスイーパーなんて仕事を始めた。だがこれも、磨き抜かれた戦闘能力のお陰で死神の手助けをするばかり。皮肉なことに燎が望めば望んだだけ、死は遠ざかってばかりいた。

井上の『幸運』にありつけば、自分にも“希望の死”への扉が開けるかもしれない。燎はそんな風に感じて、井上の依頼を受けることにした。

「どう死にたい? 希望どおりに殺してやるぜ。」

風穴-4

その日は、ユメにとっていつもと同じ日だった。
宵の口を過ぎた歌舞伎町は、雨だというのに騒々しい。
ユメは昨日と同じように人波を掻き分けて『薔薇と蜜』に向かって走り、入口で仁王立ちしていた店長に愛想笑いした。1分でも遅刻をすれば給与を差っ引くがめつい店長だ。今日こそ後ろから蹴飛ばしてやろうと口を尖らせたその瞬間、ユメは腹部を棍棒で突かれたような衝撃を受けた。へその辺りが燃える様に熱くなり、膝の力が抜け、顎からアスファルトに倒れ込んだ。襲い掛かる激痛に喉が絞られて声も出ず、体温が雨に溶けて流れ出てゆくのを止められなかった。

“寒い…。”

今日は仕事が終わったら焼肉を食べに行く約束をしているのにこれでは服が汚れてしまう。起き上がる事もできないのにユメはそんな心配をした。
そして、店長が自分の名を叫ぶ声が耳の奥で響いたのを最後に、ユメの視界は真っ暗になった。

※ ※ ※

捜査一課に四課の野口係長と高井がやって来たのは、ユメの検死が終わった時だった。

「まぁ、この嬢(こ)には悪いが、そういう訳ですんで。」

ユメは暴力団の抗争の流れ弾に当たって死んだ。凶弾を撃ったのは、北竜組の組員と目された。抗争相手である銀誠会の若衆に応戦しようと撃った弾がユメに当たったらしい。

北竜組と銀誠会は、麻薬の販売ルートを巡って以前から抗争を繰り返していた。
四課はその日、北竜組の組長が狙われるとの情報を掴んでいた。もしも組長がかすり傷でも負えば抗争は激化する。だが四課は、敢えて激化を狙い、二つの組をまとめて片付けようという作戦を立てていた。

想定外だったのは、弾に当たったのがユメだったことだ。

ユメが働く『薔薇と蜜』は北竜組の息がかかった店だが、それでもユメは一般市民だ。一般市民を殺害したとなれば、いくら暴力団でも分が悪い。そうすれば組同士の抗争は沈静化してしまい、四課の計画は水の泡だ。だが、ユメの事件を警察が重視しないと見れば、北竜組と銀誠会は、きっとまたすぐに抗争を起こす。抗争が起これば今度こそ二つの組をまとめて叩くことが出来る。だから野口係長と高井は、ユメの事件を暫く四課に預けて欲しいと頭を下げに来たのだ。

ユメの事件担当は一課の和田係長だった。
和田は堅く腕を組み、じっと野口係長の話を聞いていた。四課は地道に情報を集め、何年もかけてひっそりとこの機会を狙ってきた。それは和田も知っている。だが、殺人事件の捜査は初動の早さが物を言う。初動が遅れれば遅れただけ、犯人に証拠隠滅や逃走のチャンスを与えてしまう。
槇村は高井と視線をぶつけ、一課の刑事十数名が、和田の発言を待った。

「十日間だ。それ以上は、俺も上に言い訳ができん。」
野口は「恩に着る」と和田の肩を叩き、高井と一緒に足早に一課を出て行った。

「係長!四課の目当ては組の壊滅ですよ!」
「殺人犯なんか二の次だ!」

部下数名が叫んだが、和田の一睨みに気圧され、ぐっと声を飲む。

「四課がダメだったらすぐ動く。側面から証拠固めをしておけ!」
「はいっ‼」

部下たちは和田の命令に弾き出される様に捜査へ出たが、槇村はデスクに座ったままでいた。

「どうした槇村。」
「係長。」
「なんだ。」
「北竜組を張らせて下さい。」
「十日後からな。それまでは四課に任せる。」
「ですが、四課の対象は北竜組と銀誠会です。俺が張りたいのは、ユメの彼氏です。」
「彼氏?」
「ユメは、ヨシ君と言っていましたが、身元は分かりません。」
「その彼氏がどうかしたのか?」
「北竜組に復讐を企てるかもしれません。」
「彼女を殺された恨みか…。」
「はい。」
「いいだろう。そいつを見つけ出して下手なことをしないよう注意しろ。但し、四課の張り込みの邪魔はするな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
槇村は和田に頭を下げると、まだ新しいトレンチコートを掴んで部屋を出た。

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